【SaaSの主要KPI一覧】重要指標と設定方法を解説

【SaaSの主要KPI一覧】重要指標と設定方法を解説

SaaSビジネスにおける「KPI(重要業績評価指標)」とは、事業を成功に導くための中間目標です。「売上は伸びているのに、なぜか利益が出ない」「施策ごとの効果が見えにくい」といった悩みの多くは、KPIをきちんと理解していなかったり、適切に設定できていなかったりするケースが多いです。

SaaS企業はTHE MODELを採用している企業が多く、部門によって見るべきKPIは多種多様です。また経営陣はより上流の指標を重要KPIとして設定しています(MRRやLTV、CACなど)。これらのKPIを正しく分析することで、現状を客観的に把握でき、次に取るべきアクションを見極めやすくなります。

本記事では、SaaSビジネスにおいて、特に重要なKPIをわかりやすく紹介します。
加えて「マーケティング(広告)」「カスタマーサクセス」「経営」の3つの観点で、具体的なシーンにおけるKPI計算と解釈について解説、またSaaS事業フェーズごとのKPI設定方法も解説します。

SaaS企業のKPIを設計したい方や勉強のために指標を学びたい方におすすめの記事です。

目次

SaaSビジネスでKPIはなぜ重要?

KPI(Key Performance Indicator)は、最終目標である「KGI」を達成するための進捗を測る指標です。KGIがゴールだとすれば、KPIはそこへ向かう途中のチェックポイントといえるでしょう。日本語では「重要業績評価指標」と訳されます。

そもそもなぜSaaSビジネスにおいて、KPIが重視されているのでしょうか。主な理由は2つあります。

1つ目は、SaaSが月額課金を中心としたサブスクリプション型ビジネスであることです。定期的な収益が見込めるため、KPIを管理することで「来月の売上見込み」や「今後の成長曲線」を予測しやすくなります。結果として、経営の見通しを立てやすくなります。

2つ目は、「THE MODEL」と呼ばれる分業型の組織体制を採用している企業が多いことです。マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスといった各部門が役割を分担する中で、共通のKPIを設定すれば、部門間の認識のズレを防ぎ、スムーズな連携が可能になります。

このように、KPIを正しく理解し、運用していくことが、SaaSビジネスを継続的に成長させるための土台となります。

SaaSの事業成長性を示すKPI一覧

ここからは、SaaSビジネスでよく使われる主要KPIについて、わかりやすく紹介していきます。まずは、事業の成長性を示す指標から見ていきましょう。

【事業成長性を示すKPI一覧表】

名称 概要
MRR/ARR 月間経常収益/年間経常収益
ARPU/ARPA 1ユーザーあたりの平均売上/1アカウントあたりの平均売上
Quick Ratio 成長効率を示す指標
新規顧客数 一定期間内に新たにサービスを契約した顧客の数

MRR/ARR

MRR(月間経常収益)とARR(年間経常収益)は、SaaSの成長スピードや安定性を把握するうえで、基本となる指標です。簡単にいえば「毎月」または「毎年」継続して得られる売上のことをいいます。初期費用や一度きりのコンサルティング費用など、単発の売上は含まれません。

【活用シーン】

事業の伸び率や売上の見通しをつかむために活用されます。たとえば「先月よりMRRが20%アップした」といった変化を追うことで、成長のスピード感がつかめます。目標の進捗管理や投資家向けの資料作成にもよく使われる指標です。

【計算式】

  • MRR=月額利用料×顧客
    ※契約期間がバラバラな場合は、すべて月額ベースに換算して計算します。
  • ARR=MRR×12

関連記事:MRRとは?ARRやNRRとの違い、SaaSビジネスでの重要性、算出方法やMRRを改善する具体的な手法など分かりやすく解説

ARPU/ARPA

ARPU(アープ)は「ユーザー1人あたりの平均売上」、ARPA(アーパ)は「1アカウントあたりの平均売上」を表します。1つの企業アカウントで複数人がサービスを利用する場合は、ARPAの方が正確な顧客単価を把握できます。

【活用シーン】

顧客単価の変動をチェックしたいときに便利な指標です。たとえば、アップセルやクロスセルが進んでいるかを判断する際に使われます。高単価プランへの切り替えや、有料オプションの追加が増えていれば、ARPU・ARPAも上昇します。

【計算式】

  • ARPU=MRR÷総ユーザー数
  • ARPA=MRR÷総アカウント数

Quick Ratio

Quick Ratio(クイックレシオ)は、事業の「成長効率」を示す指標です。新規顧客やアップセルによって増えたMRRが、解約によって失われたMRRの何倍あるかを表します。いわば、事業の勢いを表すバロメーターのようなものです。

【活用シーン】

「売上は伸びているが、解約も多い」といったケースで、健全な成長かどうかを判断する材料になります。Quick Ratioが高いほど、解約による減少を上回るペースで収益が増えていると判断できます。一般的には「4以上」が健全な目安とされています。

【計算式】

  • Quick Ratio=(新規MRR+アップセルMRR)÷(解約MRR+ダウンセルMRR)

新規顧客数(New client)

新規顧客数とは、一定期間内に新たにサービスを契約した顧客の数を指します。シンプルながら、事業の拡大スピードを把握するうえで欠かせない指標です。

【活用シーン】

マーケティングや営業活動の成果を測るうえで基本となります。たとえば、Web広告や展示会を通じて、どれだけ新規顧客を獲得できたかを測定する際に使われます。この数値の推移を追うことで、市場での認知拡大や営業チームのパフォーマンスを評価できます。

【計算式】

  • 特定の期間内に新たに契約した顧客の数をカウントする

SaaSの事業効率性を示すKPI一覧

ここでは、SaaSビジネスにおける「事業の効率性」を測るKPIをご紹介します。単に売上を伸ばすだけでなく、「どれだけ効率的に利益を生み出せているか」や「投資がしっかり回収できているか」といった視点から、事業の持続可能性や健全性をチェックするのに役立つ指標です。

【事業効率性を示すKPI一覧表】

名称 概要
ユニットエコノミクス 顧客1人あたりの採算性を示す指標
LTV 顧客生涯価値
粗利率 売上に対する粗利の割合
CAC 顧客獲得コスト
CAC回収期間 顧客獲得コスト(CAC)を回収するまでにかかる期間
マジックナンバー 営業・マーケティング投資に対する収益の増加効率を示す指標
限界CPA/限界CPO 赤字にならないための許容コストの上限

ユニットエコノミクス(UE)

ユニットエコノミクス(Unit Economics)とは、「顧客1人あたりの採算性」を示す指標です。顧客1人を獲得するためのコスト(CAC)と、その顧客から得られる利益(LTV)を比較することで、「投資に見合うリターンが得られているか」を確認できます。一般的には、数値が「3」以上であれば、事業として健全とされています。

【活用シーン】

事業の健全性を評価する際に使います。たとえば、数値が1を下回っている場合、広告費をかけすぎていたり、顧客単価が低すぎたりする可能性があります。この指標を見れば、今は拡大に投資するべきか、それとも改善に注力すべきかが見えてきます。

【計算式】

  • ユニットエコノミクス=LTV÷CAC

LTV(Life Time Value)

LTVは「顧客生涯価値」とも呼ばれ、1人の顧客が契約してから解約するまでにもたらす総収益を表す指標です。この値が高いほど、長期的に安定して収益をもたらす優良顧客が多いことになります。

【活用シーン】

広告予算の上限を見極めたり、アップセルや顧客維持の成果を評価したりする際に有効です。LTVが高ければ、その分だけ顧客獲得にかけるコストの許容範囲も広がり、より積極的な施策が可能になります。

【計算式】

  • LTV=平均顧客単価÷解約率

関連記事:LTVとは?意味と計算方法、重要性、LTV向上施策までわかりやすく解説

粗利率

粗利率は、売上に対してどれだけの粗利(売上からサービス提供に直接かかるコストを差し引いた利益)が出ているかを示す割合です。簡単にいえば、「利益が出やすいビジネス構造かどうか」を見る指標です。

【活用シーン】

価格戦略の見直しやコスト構造の改善を検討する際に役立ちます。粗利率が高ければ、その分だけ事業に使える余裕資金が増えるため、広告費や開発費などへの再投資の余地も広がります。

【計算式】

  • 粗利率=(売上高-売上原価)÷売上高×100(%)

CAC(Customer Acquisition Cost)

CACは「顧客獲得単価」と呼ばれ、1人の新規顧客を獲得するのにかかった平均コストを指します。広告費、営業の人件費、ツール代など、顧客獲得に直接かかった費用すべてを含めて算出されます。

【活用シーン】

マーケティングや営業活動の費用対効果を測るときに用いられます。たとえば、Web広告と展示会出展のCACを比較することで、どの施策が効率的だったかを判断できます。

【計算式】

  • CAC=(営業マーケティングの総費用)÷新規獲得顧客数

CAC回収期間(CAC Payback Period)

CAC回収期間とは、顧客を獲得するためにかかったコスト(CAC)を、その顧客からの毎月の利益で回収するまでにかかる期間を示す指標です。この期間が短いほど、効率よく売上が回収できている状態といえます。

【活用シーン】

資金繰りや事業スピードを考えるうえでの判断材料になります。一般的に、12か月以内で回収できるのが健全な目安とされています。

【計算式】

  • CAC回収期間(月)=CAC÷(ARPA×粗利率)

マジックナンバー(Magic Number)

マジックナンバーは、営業・マーケティング活動に対する「収益の増加効率」を数値化したものです。SaaSでは、先にコストをかけて顧客を獲得し、時間をかけて収益化していくモデルが多いため、この効率が重要になります。

【活用シーン】

営業やマーケティングへの追加投資を判断する場面で使われます。たとえば、数値が「1」を超えていれば、投資によってARRがしっかり伸びていると判断され、さらなる投資判断の後押しになります。逆に「0.75」未満であれば、施策の見直しが必要なサインとされます。

【計算式】

  • マジックナンバー=(当四半期の経常収益-前四半期の経常収益)×4÷前四半期の営業・マーケティングコスト

限界CPA/CPO

限界CPAおよび限界CPOは、「この金額までならコストをかけても利益が出る」という上限ラインを示す指標です。広告投資の際、このラインを超えると赤字になる可能性が高まります。

【用語の違い】

  • CPA(Cost Per Action):資料請求や問い合わせなど、直接売上に結びつかない成果1件あたりの許容コスト
  • CPO(Cost Per Order):購入や契約といった、売上につながる成果1件あたりの許容コスト

たとえば、限界CPAは「資料請求1件にいくらまでかけられるか」、限界CPOは「契約1件にどこまで投資しても赤字にならないか」を判断するために使います。

【活用シーン】

Web広告の予算を決めたり、キャンペーンの成果を判断したりする際に使われます。実績値が限界値を下回っていれば、さらなる投資余地があると判断できます。逆に、上回ってしまうと「赤字になる可能性が高い」ため広告戦略の見直しが必要です。

【計算式】

限界CPA

  • 限界CPA=LTV×粗利率×成約率
  • 実際は人件費などを考慮する必要があり、粗利全体が限界CPAになることはほぼないので、獲得リードからの成約率をかけることが多いです。

限界CPO:

  • 限界CPO=平均注文額×粗利率-1件あたりの固定費

SaaSの事業継続性を示すKPI一覧

SaaSビジネスは、契約後の「継続利用」が売上の基盤となります。ここでは、顧客がどれだけ長くサービスを使い続けているか、その維持状況を定量的に把握するためのKPIをご紹介します。

【事業継続性を示すKPI一覧表】

名称 概要
CCR/顧客解約率 一定期間内にサービスを解約した顧客の割合
RCR/収益解約率 解約によって失われた収益の割合
CRR/リテンション率 既存顧客がサービスを継続利用している割合
NRR/GRR 既存顧客からの売上維持率
Burn Rate 月次のキャッシュ消費率

CCR/顧客解約率(カスタマーチャーンレート)

CCR/顧客解約率とは、一定の期間内に、どれくらいの顧客がサービスを解約したかを示す指標です。SaaSにおいて基本となる指標であり、売上を安定・拡大させるには、チャーンの抑制が不可欠です。プロダクトやサポートに対する不満が潜んでいる可能性もあります。顧客離れは、企業ブランドや信頼性にも影響を与えるため注意が必要です。

【活用シーン】

顧客満足度の変化や、サービスに潜む課題を把握したいときに活用します。数値が悪化している場合は、プロダクトの使い勝手、価格設定、サポート体制などを見直すサインかもしれません。

【計算式】

  • 顧客解約率=(期間内に解約した顧客数÷期間開始時の顧客数)×100(%)

関連記事:チャーン(churn)とは?カスタマーサクセスに必須の指標、その意味と計算方法について

関連記事:チャーンレートとは?種類や計算方法、解約率の改善策から重要な理由まで解説

RCR/収益解約率(レベニューチャーンレート)

RCR/収益解約率は、解約によってどれくらいの「金額」が失われたかを示す指標です。CCRが「人数ベース」であるのに対し、RCRは「売上ベース」で測定する点が特徴です。たとえ解約したのが1社だけでも、それが高額プランの顧客であれば、ビジネスへの影響は大きくなります。

【活用シーン】

解約が、ビジネスに与える金銭的なインパクトを正確に知りたいときに使います。CCRと併用することで、「どの価格帯や契約形態の顧客が離れやすいのか」といった、より深い分析が可能になります。

【計算式】

  • 収益解約率=期間内の損失額÷期間開始時の定期収益額×100(%)

CRR/リテンション率

CRR/リテンション率(顧客維持率)は、既存顧客のうち、どれだけの割合が引き続きサービスを利用しているかを表す指標です。顧客解約率とは逆に、この数値が高いほど、多くの顧客に満足してもらえている、いわばファンが多い状態ともいえます。

【活用シーン】

顧客との長期的な関係性を可視化したいときに活用されます。カスタマーサクセスチームの評価指標として使われることも多く、顧客ロイヤルティを測るうえでも重要な指標です。

【計算式】

  • リテンション率=(期間終了時の顧客数-期間中に獲得した新規顧客数)÷期間開始時の顧客数×100(%)

関連記事:リテンション率(ユーザー定着率)とは?意味や計算方法・向上させるメリットと5つの改善方法

NRR/GRR(Net Revenue Retention/Gross Revenue Retention)

NRR(売上維持率)は、既存顧客からの売上が、前月や前年と比べてどれくらい変化したかを示します。解約やダウングレードによる「減収」と、アップセル・クロスセルによる「増収」の両方を含めて計算されるため、既存顧客ベースで事業が成長しているかがひと目でわかります。

GRR(Gross Revenue Retention/総収入維持率)は、アップセルやクロスセルなどの増収を除き、「純粋にどれだけの売上を維持できているか」にフォーカスした指標です。

【活用シーン】

NRRは、アップセル戦略や既存顧客への提案が成果を生んでいるかを測るのに適しています。数値が100%を超えていれば、新規顧客を増やさなくても、既存顧客からの収益だけで事業成長が見込める状態といえます。特に投資家からの評価にも直結しやすいため、注目度の高い指標です。

【計算式】

  • NRR=(期間開始時MRR+アップセルMRR-ダウンセルMRR-解約MRR)÷期間開始時MRR
  • GRR=(期間開始時MRR-ダウンセルMRR-解約MRR)÷期間開始時MRR

関連記事:NRRとは?計算方法、SaaSビジネスでの重要性と改善方法を解説

Burn Rate(月次キャッシュ消費率)

Burn Rate(バーンレート)は、会社が毎月どれだけのキャッシュを消費しているかを表す指標です。特に、まだ利益が出ていないスタートアップにとっては、「あとどれだけ運転資金がもつか」を把握するための重要な指標になります。

バーンレートには2種類あります。

  • グロスバーンレート:1か月あたりの総支出
  • ネットバーンレート:支出から収入を差し引いた正味のキャッシュ消費額

実務では、資金が尽きるまでの期間(=ランウェイ)を計算するために、ネットバーンレートがよく使われます。

【活用シーン】

スタートアップや資金調達前の企業では、「あと何か月、現在のペースで事業を継続できるか?」を把握するために活用できます。ランウェイとあわせて管理することで、資金が尽きる前に戦略の見直しや資金調達の準備ができます。

【計算式】

  • ネットバーンレート=月間総支出-月間総収益
  • ランウェイ(ヶ月)=現金残高÷ネットバーンレート

 

その他に覚えておきたいKPI関連用語一覧

これまでご紹介した主要な指標に加えて、SaaSビジネスにおいて押さえておきたいKPIに関連する用語があります。これらの指標は、顧客の満足度や定着状況など、「数値化しにくい要素」を把握するために有効です。ここでは、実務に役立つKPI関連用語をご紹介します。

【覚えておきたいKPI関連用語一覧】

名称 概要
NPS® 顧客ロイヤルティ(愛着・信頼)を測る指標
Time to Value(TTV) 顧客が価値を実感するまでの時間
オンボーディング完了率 初期設定プロセスを完了した顧客の割合

 

NPS®(Net Promoter Score)

NPS®は、「このサービスを友人や同僚にどれくらい勧めたいか?」というシンプルな質問で、顧客のロイヤルティ(愛着や信頼)を可視化する指標です。回答は0〜10点の11段階で行われ、そのスコアに応じて回答者は次の3つに分類されます。

  • 推奨者(9〜10点):積極的にサービスを周囲に勧めたいと考えている
  • 中立者(7〜8点):満足しているが、特に勧めようとは思っていない
  • 批判者(0〜6点):満足しておらず、ネガティブな印象を持っている可能性がある

【活用シーン】

顧客満足度を、より深く定量的に把握したいときに便利です。単に満足しているかだけでなく、「周囲に紹介したいと思えるほど気に入っているか」がわかるため、サービスの本当のファンがどれくらいいるかが測れます。「批判者」の声からサービスの弱点を、「推奨者」の声から強みを把握でき、改善のヒントが得られます。

【計算式】

  • NPS=(推奨者の割合-批判者の割合)

関連記事:

NPS®(ネット・プロモーター・スコア)とは?平均値、質問、事例など、まとめました!

【2025年4月最新】BtoB SaaSにおけるNPSスコアの平均値は?活用方法も紹介

Time to Value(TTV)

Time to Valueとは、顧客がサービスを使いはじめてから「使ってよかった」と感じるまでにかかった時間を指します。この時間が短いほど、顧客は早い段階でサービスに満足し、継続利用につながる可能性が高まります。

【活用シーン】

「なぜ離脱が早いのか?」という課題を掘り下げるときに有効です。もしTTVが長いようであれば、初期設定が複雑だったり、マニュアルがわかりにくかったりするのかもしれません。サポート体制を見直すきっかけにもなります。

 

オンボーディング完了率

オンボーディングとは、顧客がサービスを使いはじめてから、基本的な操作を覚え、自立的に活用できるようになるまでの支援プロセスです。オンボーディング完了率は、そのプロセスを最後まで完了した顧客の割合を示します。たとえば「主要な機能をひと通り使えたら完了」といった形で、各サービスごとに基準を設けて計測します。

【活用シーン】

顧客がサービスを問題なく使いこなせているかを確認したいときに使用されます。完了率が低い場合、導入初期に十分な価値を伝えられておらず、離脱リスクが高まっている可能性があります。チュートリアルの内容、初期設定の手順、ガイド資料の充実度など、改善すべき点を特定するための材料になります。

【計算式】

  • オンボーディング完了率=(オンボーディングを完了した顧客数÷オンボーディングを開始した顧客数)×100(%)

関連記事:オンボーディングとは?SaaSのカスタマーサクセスにおける重要な施策について徹底解説

代表的なSaaSビジネスのKPIツリー

代表的なSaaSにおけるKPIツリーを紹介します。

事業の採算性を把握するためのロジックツリーがこちらです。UnitEconomics=LTV÷CACとなるところからスタートし、それぞれの要素を分解していきます。
LTV構造の把握や獲得コスト構造の把握、事業の採算性や中長期的な継続性・効率性など事業推進の様々な点を網羅的に確認できます。
kpi


事業の収益構造を把握するロジックツリーがこちらです。SaaS企業において重要KPIの1つである「純増MRR」(ストック売上が伸びているかどうかの指標)を軸に、獲得と解約を分けることで構造化していきます。獲得においてはMRRの獲得チャネルを分解していくことで、フィールドセールスやインサイドセールス、マーケティングまでKPIを可視化していくことができます。解約においては解約率と解約顧客の要因など、カスタマーサクセス関連KPIとして可視化していくことができます。
弊社ではこのロジックツリーを用いて月初に事業部全体の数値進捗を確認する会議を行っています。
kpi2


 

SaaSのKPI指標の計算・設定方法(活用シーン別)

ここからは、目的やシーン別に活用できるKPIの設定・計算方法をご紹介します。マーケティング施策の投資判断や、事業成長の可視化といった実務に直結する分析が可能になるため、ぜひ参考にしてみてください。

CASE1:限界CPA、CAC回収期間を求める(マーケティング)

Web広告などの施策を計画するとき、「顧客獲得にいくらまで広告費をかけてもいいのか」と悩んだ経験はありませんか?

広告費の損益分岐点となる「限界CPA」と、実際のCAC(顧客獲得単価)を何か月で回収できるかを示す「CAC回収期間(Payback Period)」の算出方法を見ていきます。

【前提条件】

  • サービス内容:プロジェクト管理ツール
  • 平均月額単価(ARPA):70,000円
  • 粗利率:60%
  • CAC:560,000円

CACの計算はざっくり「(人件費+年間マーケ費用)÷年間新規獲得社数」で計算します。できれば前年度実績で計算すれば細かく算出できますが、ざっくりでも大丈夫です。

ざっくりの場合、人件費は「プロフェッショナル層(部長レイヤー):1000万円」「マネジメント層:700万円」「メンバー層:500万円」をもとに、マーケティング&セールス領域の人件費として計算をします。

例えばプロフェッショナル層が1名、マネジメント層が1名、メンバー層が5名の組織であれば、人件費の合計は4200万円になります。ただ給与がこの金額なので、会社としての支出を考慮して1.5倍の6300万円で見積もります。

またマーケ費用は年間広告費で、仮に1000万円と見積もります。獲得社数は130社とすると、

(6300万円+1000万円)÷130社 ≒ 56万円

となり、CACが約56万円と計算できます。

ここから各種計算を始めていきます。

STEP1:限界CPAを計算する

まず、一人の顧客を獲得するために使ってよい広告費の上限(限界CPA)を求めます。これを超えると、1年以内に費用を回収できず赤字になる、というボーダーラインです。

【計算式】

限界CPA=LTV(ARPA×20か月)×粗利率×成約率(3%と仮定)

【計算例】

(70,000円×20か月)×60%×3%=25,200円

この結果から、「顧客1人を獲得するのに、広告費が約25,000円までなら1年以内に回収できる」と判断できます。

STEP2:CAC回収期間を計算する

次に、実際にかかった顧客獲得コスト(CAC)を、何か月で回収できるか、CAC回収期間を計算します。短期間で回収できていれば、効率的なマーケティング施策といえます。

【計算式】

CAC回収期間=CAC÷(ARPA×粗利率)

【計算例】

560,000円÷(70,000円×60%)≒ 13.3

CAC回収期間が13.3か月と算出できました。これをどう使うのか、ですが、SaaS企業は最低利用期間を12か月(1年間)と定めていることが多いと思います。もし12か月で解約された場合、CACを回収できず、実質的な赤字と評価できます。

もちろん解約率が低ければ問題ないですし、すべての顧客で利用期間が上回る必要があるわけではない(そうなればそれが一番いい)です。

しかし、可能な限りPayback Periodを最低利用期間以内にすることで、健全なSaaS運営ができるようにしましょう。

このようにして、広告運用を中心とした限界CPA・Payback Periodの算出と活用をしていきます。この結果を踏まえて、このキャンペーンに追加で予算をかけたり、別の施策に応用したりと、SaaSビジネスの戦略につなげる判断材料となります。

CASE2:ARR、ARPUの前年比成長率を求める(経営)

経営層や事業責任者にとって、「昨年と比べてどれだけ成長しているか」を定点観測することは、戦略を立てる上で非常に重要です。ここでは、SaaS事業の成長を図る代表的な指標「ARR(年間経常収益)」と「ARPU(1社あたりの平均単価)」の前年比(YoY:Year on Year)成長率の算出方法を算出します。

【前提条件】

指標 前年 当年
期末のARR 1億2,000万円 1億8,000万円
期末の契約社数 1,000社 1,200社

STEP1:ARR(年間経常収益)の成長率を求める

まずは事業全体の成長スピードを見るために、ARRの前年比を計算します。

【計算式】

ARR成長率=(当年のARR÷前年のARR-1)×100

【計算例】

(1億8,000万円÷1億2,000万円-1)×100=(1.5-1)×100=50%

この結果から、ARRは前年比で50%増加しており、事業の拡大が順調に進んでいることがわかります。

STEP2:ARPU(1社あたり平均単価)の成長率を求める

次に、顧客1社あたりの売上がどう変化しているかを確認しましょう。ARPUの変化を見ることで、「単価アップが実現できているか」「サービス価値が上がっているか」を把握できます。

まずは、各年のARPUを計算します。

【ARPUの算出】

  • 前年のARPU=1億2,000万円÷1,000社=120,000円
  • 当年のARPU=1億8,000万円÷1,200社=150,000円

【計算式】

ARPU成長率=(当年のARPU÷前年のARPU-1)×100

【計算例】

(150,000円÷120,000円-1)×100=(1.25-1)×100=25%

経営への活かし方

ARRが前年比50%増と大きく伸び、ARPUも25%上昇しています。これは「新規顧客の獲得」と「新規または既存顧客からの単価向上」の両面で成果が出ている、健全な成長状態といえるでしょう。

ARRが伸びているのにARPUが低下している場合は、「低価格プランの顧客が増えており、収益性が落ちているのでは?」という仮説が立てられます。

このように、複数のKPIを掛け合わせて見ることで、事業成長の「質」を定量的に評価し、次の戦略判断につなげることが可能です。

CASE3:RCRとCCR(チャーンレート)を求める(カスタマーサクセス)

カスタマーサクセス部門では、解約を最小限に抑えることが重要です。ただし、解約数だけでは事業への影響を正確に把握できません。ここでは、「顧客数ベースの解約率(CCR)」と「収益ベースの解約率(RCR)」を算出し、より立体的な分析を行います。

【前提条件】

  • 月初の契約社数:500社
  • 月初のMRR(月間経常収益):8,000,000円
  • 当月に解約した社数:15社
  • 解約による損失MRR:600,000円

STEP1:CCR(顧客解約率)を計算する

はじめに、どれくらいの割合の顧客がその月に解約したのかを計算します。

【計算式】

CCR=(期間内に解約した顧客数)÷期間開始時の総顧客数×100

【計算例】

15社÷500社×100=3%

この月の顧客解約率は3%だったことがわかりました。

STEP2:RCR(収益解約率)を計算する

次に、解約によって失われた収益の割合を見てみましょう。

【計算式】

RCR=(解約によって失ったMRR)÷期間開始時のMRR×100

【計算例】

600,000円÷8,000,000円×100=7.5%

カスタマーサクセスへの活かし方

CCRが3%、RCRが7.5%と、収益ベースの解約率のほうが高くなっています。これは「平均よりも単価の高い優良顧客が解約している」可能性を示しています。

この結果から以下のような課題が考えられます。

  • 高価格プランの機能が期待に届いていない
  • 大口顧客へのサポートが不足していた

CCRとRCRを組み合わせて分析することで、単なる「解約数」だけではなく「どんな顧客が解約したのか」という質的な側面も把握できます。その結果、優先的にケアすべき顧客層を特定し、解約防止施策の精度を高めることが可能です。

解約阻止活動とカスタマーサクセスツール「Fullstar」

また、解約阻止をどのようにアクションするか(アクション策定)も非常に重要です。

弊社の調査によると、解約顧客の約80%は「オンボーディングが完了していない」顧客から発生しているため、オンボーディングを正しく行い、クイックウィン(最短で小さな成果を感じてもらう)の創出が非常に重要です。

そのためカスタマーサクセスにおいては解約率と同時にオンボーディング完了率もKPIとすることが多いです。

また、それらを管理しアクションを効率的に行うために、カスタマーサクセスツールの活用も重要です。

例えばSaaS企業のカスタマーサクセスに特化したツール「Fullstar」は、オンボーディング効率化から解約アラートによる解約阻止活動、顧客管理によるステータス把握まで、ノーコードで実現できます。

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SaaSビジネスにおけるKPI設計のポイント

「KPIは設定しているけれど、うまく機能していない」と感じる場合、そのKPIが現状に合っていない可能性があります。効果的なKPIは、「部門」「事業フェーズ」「メンバーのスキル」に合わせて設計することがポイントです。

ポイント1:部門ごとの役割に合わせて設計する

部門ごとに業務の目的や注力ポイントが異なるため、KPIもそれに応じて設計する必要があります。

経営層には事業全体の進捗を俯瞰できる指標が求められますが、現場のマーケティングやセールスには、日々のアクションに直結する具体的な数値が求められます。

  • マーケティング部門:「リード獲得数」「商談設定数」
  • セールス部門:「新規MRR」「粗利額」「LTV」
  • カスタマーサクセス部門:「解約率」「MRRの増加」

最近では、「マーケティング経由の受注粗利額」のように、より成果に近いKPIを設定する企業も増加傾向にあります。

各部門が自分たちの業務に適したKPIを追うことで、組織全体のパフォーマンスが向上します。

参考:KPIとは?職種別KPI(BowNow)

ポイント2:事業フェーズに応じて見直す

KPIは、事業の成長段階に応じて重点を置くポイントが変わります。

たとえば、立ち上げ期には「行動量」が重要です。インサイドセールスであれば、「商談設定数」といったKPIを設定し、とにかく「数をこなす」ことが求められます。

一方、グロース(成長)期に入ると、「量」だけでなく「行動の質」も重視されます。「ターゲット企業との商談数」「案件化商談数」「貢献受注額」といった、売上に直結するKPIが必要になります。

このように、事業のフェーズに応じてKPIを適切に見直すことで、チームの行動と事業の方向性を自然にリンクさせることができます。

ポイント3:スキルに合わせた設計を行う

KPIは、メンバーのスキルや経験年数にも配慮して設計することが重要です。経験の違いによっては、以下のようなKPIが考えられます。

  • ジュニア層(新卒1〜3年目):「1日あたりの架電数」など、行動量に焦点を当て、業務に慣れてもらうことを目指すKPI
  • ミドル層(新卒4年目〜):「受注金額」「大型案件の獲得数」など、成果を問うKPI
  • マネージャー層:「チームのKPI達成率」「育成状況」など、チーム全体への貢献を重視

このように、個々の能力に応じてKPIの内容やハードルを変えることで、成長を後押ししつつ、チーム全体のバランスも保ちやすくなります。

KPIは多角的に捉え、柔軟に運用しよう

SaaSビジネスにおいてKPIは、事業成長の方向性を示す大切な指標です。「成長性」「効率性」「継続性」の3つの視点を意識して設計することで、現状の正確な把握と、次の戦略につなげる意思決定が可能になります。

また、KPIは「部門」「フェーズ」「チームのスキル」によって最適な指標が異なります。自社の状況に応じて柔軟に見直しながら、目標設定の精度を高めていくことが結果につながる近道です。

KPIは一度設定したら終わりではありません。変化の早いSaaS市場では、定期的な見直しと改善の積み重ねが、継続的な成長を生み出します。

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