リテンション率(ユーザー定着率)とは、ユーザーがどれだけ継続的にサービスを利用しているかを表す指標です。
多くの企業では、「新しい顧客を増やすこと」に力を入れがちですが、ビジネスを安定的に成長させるには、「既存顧客に長く利用してもらうこと」が大切です。
リテンション率が高いほど、顧客との関係が強く、売上やブランドへの信頼も自然と高まっていきます。
本記事では、リテンション率の基本的な意味や計算方法をわかりやすく解説します。あわせて、リテンション率の向上で得られるメリットや、具体的な改善策も紹介していきます。
目次
リテンション(retention)とは、もともと「保有」や「維持」を意味する言葉です。マーケティングの分野では、既存顧客との関係を維持するための取り組みを指します。
商品やサービスを長く利用してもらうために、顧客が離れていくのを防ぎ、信頼関係を築いていく考え方がリテンションです。「リテンションマーケティング」という言葉もあり、サービスの価値を継続的に伝え、顧客が離れにくい環境を作ることが求められます。
リテンション率は「顧客がどのくらいの割合でサービスを使い続けているか」を表す指標です。日本語では「既存顧客維持率」とも呼ばれ、「リテンションレート」や「定着率」と表現されることもあります。
リテンション率が高いほど、顧客がサービスに満足し、信頼してくれていると判断できます。とくに、SaaSのような月額課金型のビジネスでは、売上の安定や将来の成長を考える上で、とても重要な指標のひとつです。
定期的にリテンション率を確認し、改善を重ねることで、顧客との信頼関係が深まり、会社の売上アップにもつながります。
次に、リテンション率の基本的な計算方法について説明します。
リテンション率は以下の計算式で求められます。
リテンション率(%)= (期間終了時の継続顧客数÷期間開始時の顧客数)×100
具体例な例で見てみましょう。
【計算手順】
① 期間終了時の継続顧客数:950人−50人=900人
② リテンション率:(900÷1,000)×100=90%
この場合のリテンション率は「90%」となります。
SaaS(サブスクリプション型)ビジネスでは、契約中の顧客がどれだけ長くサービスを利用してくれるかが非常に大切です。とくに、BtoB向けサービスでは、契約更新の有無が売上に直結します。毎月や毎年、リテンション率を測定し、解約した企業の割合を把握することで、サービス改善やサポート体制の見直しに役立てられます。
【具体例】
MA(マーケティングオートメーション)ツールを提供するSaaS企業があるとします。月初に100社の契約企業があり、1か月の間に10社が契約を解約した場合を考えてみましょう。
リテンション率 =(90 ÷ 100)×100%=90% となります。逆に解約率は10%となります。(月中で契約企業が0件の場合)
SaaS業界では、一般的に月次リテンション率が95%以上であれば健全といわれています。ただし、対象とする顧客層やサービス内容によって基準は異なります。
中小企業向けのSaaSサービスでは、顧客単価が比較的低く、数が多い傾向があるため、90〜95%のリテンション率でも安定しているとみなされることがあります。
一方で、大企業向けのSaaSの場合は、契約単価が高く、顧客数が少ないことが多いです。さらに、他のサービスに乗り換えるコストも大きいため、97〜99%以上の高いリテンション率を維持することが多いです。
アプリ業界では、リテンション率はユーザーがアプリをインストールした後、どれくらいの割合で使い続けているかを示します。インストール後の「1日目」「7日目」「30日目」など、一定期間のリテンション率を測定するのが一般的です。
【具体例】
フィットネスアプリを新しく1,000人がダウンロードしたとします。7日後に再びアプリを開いたユーザーが350人いた場合、リテンション率は次のように計算できます。
7日後のリテンション率(%)=(350÷1,000)×100=35% となります。
アプリの種類などによって、リテンション率の適正値は大きく異なります。モバイルマーケティング分析を行うAdjust社の調査によると、「1日目に26%に低下し、7日目までに13%になり、30日後には7%になった」という結果が出ています。また、インストール後、3分の1以上のユーザーが使い続けている場合は、アプリは高性能であると伝えています。
参考:Insights into what makes a good mobile app retention rate | Adjust
リテンション率を正確に計算するためには、以下3つのデータが必要です。
これらのデータをもとに、以下の手順でリテンション率を求めます。
【計算手順】
① 期間終了時の継続顧客数:「3.終了時点の顧客数−2.新規獲得数」
② リテンション率(%)=(期間終了時の継続顧客数÷期間開始時の顧客数)×100
期間をそろえて比較することで、改善効果を測定しやすくなります。
リテンション率を高めると、どのような効果が得られるのでしょうか。ここでは、その重要性について解説します。
アップセルは、既存顧客に追加で商品やサービスを販売して、顧客単価をアップさせる営業手法の一つです。 クロスセルとは、商品・サービスの購入を検討している、または既存顧客に対して、関連商品やサービスを提案して売上をアップさせる営業手法です。 このアップセルやクロスセルは既存顧客全員に対して行える営業手法ではなく、すでに利用している商品やサービスの満足度・継続率が高く、現状に満足していない顧客に対して効果が出る手法です。 ユーザー定着率が高いということは、継続的に商材を利用している顧客の割合が高く、顧客との関係が良好なのでアップセル・クロスセルによる顧客単価の向上目指しやすくなります。
関連記事:アップセル・クロスセルとは?意味や違い・カスタマーサクセスにおける重要性、事例を解説
新規顧客を獲得するためには、広告出稿や営業活動に多くのコストと手間がかかります。一般的に「1:5の法則」と呼ばれるように、新規顧客1人あたりの獲得コストは、既存顧客を維持する場合と比べて約5倍になるといわれています。
リテンション率を高めれば、既存顧客がサービスを長く利用するため、集客にかかるコストや労力を抑えられます。節約できたリソースをサポート体制の充実や、商品改善へ振り向けることで、さらなる顧客満足につながります。
LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)は、顧客が取引を開始してから終了するまでの間に、企業にもたらす利益の総額を示す指標です。長期的な収益を予測するうえで、非常に重視されています。
リテンション率が上がれば、商品やサービスの利用期間が自然と長くなり、それに伴いLTVも高くなります。既存顧客との良い関係を維持し続けることで、安定した売上基盤を築きやすくなります。
関連記事:LTVとは?基礎知識や算出方法からカスタマーサクセスとの関係性など、その重要性をまとめました
そんなユーザー定着率が低下していく要因は次のような理由が挙げられます。
ユーザーがサービスを使っている際、使いづらいと考えていると、活用するモチベーションはどんどん低下していき、最終的には解約に繋がってしまいます。操作がわかりづらい、活用できない機能が多いなどユーザーがストレスを感じる状況が続くと、ユーザーはサービスを導入した目的を見失い課題を解決できていないと感じるため、ユーザー定着率は低下していきます。
サービスを継続的に利用する理由・機能がない場合、ユーザーはサービスに価値を感じにくくなり、離脱しやすくなります。なので継続的に利活用することで、価値が増加するように設計する必要があります。具体的には、データの蓄積やユーザー同士の交流など、継続的にサービスを利用することで価値が増加するように設計する必要があります。
オンボーディングとは、企業が提供するサービスやプロダクトを導入したユーザーが、その使い方や機能を理解し、自走状態になるまでサポートするプロセスです。このプロセスが上手くいかない状態でユーザーがサービスやプロダクトを使い始めたとき、ユーザー自身が活用方法を把握できず、満足度が低下するとともに利用を継続しようという意思が無くなってしまいます。その結果解約率が増大し、ユーザー定着率が低下する要因となってしまいます。
関連記事:オンボーディングとは?SaaSのカスタマーサクセスにおける重要な施策について徹底解説
Zendesk社の調査によると、顧客がサービスに不満を感じる多くの原因はサポート対応にあります。「サポートとのやり取りの時間が長い」「何度も同じ情報を伝える必要がある」「サポート担当が不適切」といったケースです。サポートに頼ることが多いサービスでは、対応の質がリテンション率に直接影響します。
問題が発生したとき、期待通りのサポートが得られないと、ユーザーの不満はすぐに高まります。困っているときこそ、丁寧で迅速な対応が求められます。待たされる時間が長い、的外れな返答が続く、機械的な受け答えが多いといった不満は、ユーザー体験を大きく損なう原因となります。リテンション率を高めたい場合は、顧客の立場に立ったスムーズなサポート体制を整えることが大切です。
では、具体的にユーザー定着率を向上させる方法を以下に紹介します。
オンボーディングを成功させることで、ユーザーが自走してサービスを活用できる状態になります。オンボーディングを充実させるためには、以下3点が重要です。
オンボーディングの目的はユーザーがサービスを使うにあたって自走出来る状態になってもらうことです。そこでユーザーの知識やスキルレベル、ニーズ、課題を把握し、ユーザーにとって理解しやすい内容を提供することが大事になってきます。
ユーザーがサービスを駆使するためには、継続的なサポートが必要です。そのため初期オンボーディングを実施した後も、定期的にフォローアップを行うことで、オンボーディングの効果をさらに高めることが出来ます。例えば、オンラインマニュアル・動画による説明やカスタマーサポートの継続した支援などが挙げられ、これらの施策を組み合わせることで、より効果的なオンボーディングを実現することができます。
よりオンボーディングを充実させるには、サービスの導入目的やユーザーの目標を明確にすることが必要不可欠です。目的や目標を明確にすることで、オンボーディングの内容を効果的に設計しやすくなり、その成果を測定しやすくなります。その結果、ユーザーが自走出来るまでの最短距離で支援できるようになります。
リテンション率の向上には、顧客がストレスなくサポートを受けられる環境づくりが大切です。「問い合わせ対応が遅い」「担当者ごとに回答内容が違う」といった状況は、顧客満足度を下げる原因になります。
このような課題を解決する方法として、チャットボットやCS(カスタマーサクセス)ツールの活用が有効です。チャットボットを導入すれば、24時間いつでも安定した回答を提供できます。よくある質問を自動化することで担当者の負担が減り、より複雑な問い合わせへの対応に集中しやすくなります。スムーズなサポート体験は、サービスを使い続ける理由にもなります。
さらに、CSツールを使えば、顧客自身が操作方法を学びながら疑問を解決できる「デジタルガイド」も簡単に作成できます。自分で問題を解決しやすい環境が整うことで、サポートへの不満が減り、結果的にリテンション率の改善にもつながります。
「IZANAI Powered by OpenAI」は、日常業務でよくある質問(FAQ)への対応を効率化する生成AIチャットボットです。これまでのFAQシステムのように、シナリオ作成に時間をかける必要はありません。社内のPDF資料やWebサイトのURLを登録するだけで、AIチャットボットを簡単に作ることができます。
あいまいな質問に対しても、AIが意図を理解し、適切な回答を自動で生成します。これにより、問い合わせ対応の時間と手間を削減し、本来注力すべき業務に集中できるようになります。導入しやすい価格設定も魅力のひとつです。
「Fullstar」は、顧客のサービス活用を成功へ導き、LTV(顧客生涯価値)を最大化するためのカスタマーサクセスツールです。ノーコードで「チュートリアル」を作成でき、顧客が自分のペースで初期設定を進められる仕組みづくりが可能です。サポート担当者の負担削減にも役立ちます。
加えて、利用状況やアンケート結果をもとに顧客の行動を分析し、サービス改善や開発へのヒントを得ることもできます。利用率の低下や解約の兆候を早期に発見し、企業側から積極的に働きかけることができる点も特徴です。これにより、限られたリソースでも効率的なカスタマーサクセス活動を展開し、リテンション率の向上を支援します。
ロータッチとは、カスタマーサクセスの取り組みの一環で、セミナーなどの形式をとることで、カスタマーサクセス担当者が、複数の顧客に対して同時に支援を行う手法を指します。一方テックタッチとは、メール配信・セミナー動画配信・チュートリアル・チャットボットなど、システムやツールを活用したサポート手法です。
これらの手法を駆使し、ユーザーに継続的なサポートを提供することで、ユーザー定着率を向上することができます。例えば、ユーザーが困っているタイミングで動画やチュートリアルを見ることで、ユーザー自身で悩みを解決することが出来るので、ストレスなくサービスを使っていただけます。また、ユーザーとのコミュニケーションを継続してとれるので、企業とユーザーの信頼関係を構築しやすくなり、ユーザー定着率の向上につながります。
リテンション率を高めるためには、まず顧客への対応の仕方を見直すことが重要です。多くの企業では、問い合わせがあったときだけ対応する「受け身」のサポート体制を取っています。これを「主体的」にな形に変えることで、リテンション率の改善に大きく貢献できます。
カスタマーサクセスツール「Fullstar」を導入している株式会社アローリンク様は、アラートリストを活用して、解約しそうな顧客に事前にアプローチする仕組みを作りました。顧客の利用状況を常に把握し、問題が起こりそうな兆候が見られたタイミングで、担当者が先回りして連絡を取った結果、導入前は20%だった解約率が11.7%まで改善しました。
さらに、解約の申し出があった場合でも、ただ受け入れるのではなく、その原因を分析して次の施策に活かすプロセスを整備しました。これにより、サポート支援の継続率が50%から75%へと向上しています。顧客の声を待つだけでなく、普段から積極的に関係を築く意識が、リテンション率アップにつながります。
関連記事:年次解約率が8.3%改善!プロフェッショナルサービスの継続率は25%UP!株式会社アローリンク様
ロイヤルカスタマーとは、商品やサービスに対して高い満足度と信頼を持ち、継続的に利用してくれる顧客のことです。 ロイヤルカスタマーを多く抱える企業は、顧客から「また利用したい」や「友人に勧めたい」と思ってもらえる企業です。 ユーザーがサービスの愛着や信頼を感じていると継続的にサービスを利用してもらえたり、友人や知人にサービスを紹介し、新規の顧客獲得に繋がったりするので、ユーザー定着率が向上しやすくなります。
リテンション率は、サービスの成長や売上を支える「顧客維持力」を数値化できる大切な指標です。新規顧客の獲得だけに頼らず、既存顧客と良好な関係を長く築くことが、結果的に事業の安定成長と収益アップにつながります。
とくに、SaaSやアプリのような継続利用型のビジネスでは、リテンション率の高さが企業価値を左右することもあります。
改善には、短期的な成果だけを求めるのではなく、地道に取り組み続ける姿勢が求められます。信頼関係を築き、長くサービスを利用してもらえる顧客を育てることが、安定的な成長への近道です。
カスタマーサクセスツール「Fullstar」を活用すれば、「チュートリアル」やカーソルを合わせたときに表示される「ツールチップ」を、専門知識なしで簡単に設定できます。この仕組みにより、顧客は自分のペースで製品の使い方を理解し、導入のプロセスをスムーズに進めることができます。その結果、サポート担当者の負担も減り、少ない人数でも効果的なサポートが実現できます。
ユーザー自身が疑問や課題を解決できる環境を整えることで、サービスへの満足度が高まり、企業との信頼関係も自然と強化されていきます。こうした積み重ねが、リテンション率の向上を支える基盤となるでしょう。
無料プランで始める
書類不要!最低利用期間なし!
ずっと無料で使えるアカウントを発行