アップセル・クロスセルとは、従来の営業活動においても取り組まれてきたセールス手法のひとつで、既存顧客に販売するものを増やす(定期収益を増やす)ことを目的としています。近年SaaSにおけるサブスクリプション型ビジネスの台頭によってカスタマーサクセスが重視される中、アップセル・クロスセルがいま再び注目を集めています。 本記事では、アップセル・クロスセルの重要性や、何を目的に、どのような点に気をつけて、どのような施策を行うのかを解説します。アップセル・クロスセルの違いがわからないという方から、最新の施策に見られる傾向から本格的に取り組みたいという方まで、ぜひ自社のカスタマーサクセス戦略にお役立てください。
アップセル(up sell)とは、顧客が購入した自社製品・現在利用しているサービスよりも高額な「上位製品やサービス」、または「追加オプション」の購入を促進することで、定期収益を増やす手法です。顧客の「数」ではなく、顧客の「質(単価)」向上に重点をおいた施策といえます。
例えばAmazonの無料会員から有料会員へ切り替えることで商品購入時の送料が年間を通して無料になる他、音楽や動画・フォトストレージなどの他サービスも利用できるようになるのですが、上位プランへの移行はアップセルにあたります。
ただし、既存顧客にアップセルするためには、顧客が利用している製品・サービスに対して「一定の成果・成功を実感できており、顧客が満足している状態(顧客ロイヤルティがある程度高いこと)」が必須です。
既存顧客の継続的な利用と契約金額増加によって、新規顧客獲得に頼らず収益向上を目指す考え方は、ビジネスモデルが買い切り型からサブスクリプション型へと移行する中で、改めて重視されるようになっています。
「アップセル」には、具体的にどのような施策・手法があるのか、具体例を交えて解説します。
たとえば「1ユーザーあたりの課金体系」をとっているSaaSビジネスの場合、利用している部署の拡大、利用者の増加により「アカウント(ユーザー)数」を追加申込してもらうことで、追加したアカウント分の収益向上が見込めます。
アカウント数増加の提案を行うには、ビジネスポテンシャル(契約金額や企業情報)をはじめ製品活用度やプログラム活用度などの顧客データを把握し、分析することが必須です。「顧客企業の組織や体制の変化による利用者数の変化」を察知し、「サービスを活用している部門でまだ利用していないメンバーがいる」「社内で導入していない部門がある」「組織内で増員がある場合」などを把握します。または、顧客の登録アカウントユーザー以外からトライアル申込などがあれば、アカウント数増加の提案を行うタイミングです。
現在契約中のプランより高額な上位プランへのアップグレードも、定期収益向上に貢献するアップセル施策のひとつです。前項と同じく「指標」となっている顧客データを把握し、正しく分析してから適切なタイミングでアプローチしましょう。
顧客の行動データを、現在契約しているサービスに対し「頻繁にログインされている」「より長い時間利用されている」などの利用状況から判断して、上位プランの提案を行います。
たとえば年会費無料のクレジットカードを、実績のある会員に対して、有料会員のカードへグレードアップを提案するのはアップセルの代表的な一例です。上位プランに切り替えることでさまざまなサービスが受けられたり、ポイント特典を受けられたりと、支払った年会費を上回る嬉しいベネフィットが多く受け取れることで、顧客満足度を向上させます。
SaaSビジネスにおけるサブスクリプション型モデルの場合も、フリープランから初めてより多機能な有料プランを訴求する手法は、非常によく見られる方法です。
顧客は、プランの詳細な内容まで熟知していないケースもあるため「上位プランに切り替えることでより充実した体験や成果を得られる」という情報を適切なタイミングで提供することで、スムーズにアップセルへとつなげられるでしょう。
契約中のサービスに、「オプション」として備えている機能を追加購入してもらうことでも、アップセルを狙えます。一部の必要としているターゲットに対し、サブ価値として提供します。
例えばSaaSビジネスのサービスでは、「容量追加」「他サービスとの連携」「ファイルのバックアップ」「有人サポート」などが、主となるサービスに付随して利用できるオプションです。製品やサービスによっては、「特定のオプションの追加」をしてもらうことで、結果として前項のアップグレードも兼ねる選択肢となるケースもあるかもしれません。オプション追加は「顧客により高い体験価値を与える」ことが目的なので、押し売りにならないよう慎重に行いましょう。
なお、自動車を購入する際に「カーナビ」という別商品をオプションとして購買してもらう、といった手法は、おなじオプションでもクロスセルにあたります。クロスセルについては次の章で見ていきましょう。
クロスセル(cross sell)とは、顧客が購入した(現在利用している)自社の製品・サービスに対して、関連する別の製品・サービスを購入してもらうことによって定期収益を増やす手法です。「セット販売」という言葉で表すとイメージしやすいかもしれません。アップセル同様、顧客の「数」ではなく、顧客の「質(単価)」向上に重点をおいた施策です。
カスタマーサクセスにおけるクロスセルは、アップセル同様に顧客データ(ビジネスポテンシャルや製品活用度、プログラム活用度)を把握し分析することに加え、購入後の活用イメージや成功イメージを想起してもらうことが重要になります。「一緒に利用する方がもっと成功につながりそうだ」というポジティブなイメージを持ってもらい、購入後も「成果がでた、成功につながった」と満足する結果を得てもらうことで、顧客ロイヤルティの向上につなげることが可能です。
「クロスセル」施策の具体的な方法には以下のようなものがあります。
現在顧客が利用している製品・サービスに対して、「セット販売」という視点から「関連製品やサービス」または「補完的サービス」を提案することで、収益増加を見込めると同時に、顧客の成果も最大限に引き出すことが可能になります。
ECサイトで「この商品を見ている人はこちらも購入しています」と他の商品をオススメされるケースや、「3点購入で10%オフ」といった販売方法も、クロスセル施策の代表的なものです。
BtoBビジネスの場合、営業部門で「SFA」を導入する際、マーケティング部門が集客したリード(見込み客)に対してリード管理から育成まで行える「MAツール」も同時契約する、または、Webサイト制作の際に「月額○万円でWeb広告の運用も併せて契約」するのもクロスセルにあたります。
その他のクロスセルの具体例としては、
など、BtoB、BtoC問わずいろいろな業種・業界で取り入れられています。
アップセル・クロスセルはよく似た手法であり、「既存顧客に販売するものを増やすこと(契約金額増加)により定期収益を上げる」という目的は同じです。施策によっても酷似していることから、切り分けて定義するのがむずかしい部分もあります。
基本的にはアップセルは「より高額な上位プランや機種への切り替え」、クロスセルは「+αで別製品や別プランの購入」と捉えておけば相違ないでしょう。
SaaSのサブスクリプション型ビジネスモデルの台頭により、カスタマーサクセスの重要性は年々高まり、その効果への期待も熱く寄せられています。カスタマーサクセスの教科書(青本)として有名な「カスタマーサクセス―サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則」にも記述があるように、カスタマーサクセスへの取り組みで得られる成果・効果は、主に3つに分類できます。
顧客の解約率を最小限におさえることで継続率を向上させることが、カスタマーサクセスの最大のミッションである「LTV(ライフ タイム バリュー:顧客生涯価値)を最大化」することに繋がります。LTVは「平均顧客単価 × 収益率 × 購買頻度 × 継続期間」で算出できることから、継続利用してもらうことでLTVを向上させ、安定的な売上を保つことができます。
アップセル・クロスセルは、新規顧客を獲得するためのコストを抑えながら自社の定期収益を増加させることが可能です。既存顧客への販売コストは新規顧客獲得の5分の1だと言われており、効率的に収益をあげながらLTVを高められる重要なポイントです。
「二次収益」という観点においては、顧客体験価値と顧客満足度の維持・向上も欠かせない項目です。既存顧客が自社の製品・サービスに高い満足度を得ている場合、たとえば「担当者が転職しても同じサービスを使ってくれる」「ポジティブな口コミを広げて、同じ課題を抱えるユーザーが製品・サービスを選択する際の決め手を与えてくれる」など、さまざまな恩恵を与えてくれるはずです。
サブスクリプションモデルは「ストック(定期収益)型ビジネス」であることから、新規顧客の獲得だけでなく、「解約(チャーン)率を引き下げる」「高い継続(リテンション)率」と「アップセル・クロスセルの成果」が求められます。サブスクリプションモデルの事業は、この3つが揃って初めて上手くまわり始めるのです。
またアップセル・クロスセル施策を講じる際、顧客が満足しているかという切り口から「継続率」を見直す分析作業は必須となるでしょう。包括的にビジネスの成長を把握できることも、アップセル・クロスセルが重要視される一因といえます。
アップセル・クロスセルにはどのようなメリットがあるかを改めて確認し、カスタマーサクセス施策に戦略的に取り入れましょう。
アップセルを実施することで、より高機能かつ高価格の製品やサービスを提供できるようになれば、一顧客あたりの単価が向上します。既存顧客の単価向上によって効率的に収益向上を実現できるのが大きなポイントです。
アップセル施策の対象は既存顧客ですが、「ある一定期間、ある一定以上の利用実績がある顧客」場合、自社に対して一定以上の満足度や信頼感をもっていることが想定できます。「自社について何も知らない」という新規顧客と比べても、正しいタイミングで的確にアプローチすれば、高い確率での成約率が見込めるのです。
「5:25の法則」は、顧客の解約を5%改善すれば、25%利益率が改善するといった、マーケティングにおいて有名な理論です。顧客と良好な信頼関係を築いていくことで、一顧客あたりの売上=LTVを最大化できます。また適切な顧客育成と併用することで、より高い確率で顧客単価を上げていくことも可能になるでしょう。
マーケティング分野における「1:5の法則」に示されるように、「新規顧客獲得に生じるコストは、既存顧客維持の5倍かかる」といわれています。この「既存顧客の継続利用」を重要視する背景からも、SaaSにおけるサブスクリプション型ビジネスが広がりつつある現代においては、LTV(顧客生涯価値)がより重視されるようになっています。LTVの算式を見れば、LTVを最大化させるためには「顧客単価向上=アップセル・クロスセル」が重要であるということが見てとれます。
サブスクリプション型ビジネスは「最初に全額を払いきる買い切り型より、月額制で導入ハードルが低い」という特長に対して、「継続してもらわなければ収益を上げられない」料金体制が課題ともいえます。しかし「継続利用してもらえれば、顧客ごとにはわずかな増額でも、LTV向上に大きく貢献する=買い切り型以上に収益をあげることが可能」というのが、現代のビジネスにおいてアップセル・クロスセルが重視されている理由です。
収益源を考えて「単なる値上げ」を行うのではなく、「顧客に製品やサービスの品質について納得してもらった上でアップセルという手段をとる」というのは、顧客と良好な関係構築をしていく上で最も理想的な形といえるでしょう。
ダウンセル(down sell)は、アップセルとは反対で、顧客が購入したものよりも、下位の製品・サービスへの切り替えを提案する施策です。顧客が利用している製品・サービスが「オーバースペックで使いこなせていない」場合、ダウングレードしたプランを継続してもらうことで、関係性をつなぎとめておく目的で行われます。
あくまでも「下位ランクの製品」を購入してもらうのであって、現在の商品を「値下げ」して購入してもらうということではない、という点には注意が必要です。
ダウンセル施策には、具体的にどのようなものがあるかご紹介します。
ダウンセルの具体的な施策として、上位プランから下位プランへのダウングレードや、オプションの解約・契約アカウント数の削減などがあります。「多機能すぎて使いこなせていない、予算削減のために解約するべきか」と迷っている顧客を放置してしまえば、「解約=売上(収益)ゼロ」となる可能性は非常に高いでしょう。適切なタイミングで「下位ランクのサービスに切り替えませんか?」と現在の顧客のフェーズに合った機能を提案し、売上がゼロになる事態を防ぎます。
顧客によっては、ダウンセルを講じたほうが費用対効果を向上でき、結果的に満足度が上がるケースもあるのです。売上だけに注視せず、顧客の成果に寄り添い、継続的に良好な関係を築くことで、その後のアップセル・クロスセルにつながる可能性も充分にありえます。購入後の顧客の行動データを、正確に分析していくことが肝となる施策です。
アップセル・クロスセルを不特定多数の既存顧客に対して手当たり次第に押し売りをしても、成果が出ないどころか逆効果になります。アップセル・クロスセルを成功させるための5つのポイントを解説していきます。
顧客ロイヤルティとは、自社や製品サービスに対する顧客の愛着度を表します。
「製品の定着率が低い」「効果や成果をまだ実感できていない」段階のロイヤリティが低い層に対していきなり「上位プラン」を推奨するのは、ただの押し売りと捉えられかねません。アップセルを提案するには、自社の製品やサービスの活用が浸透しある一定の成果を出しており、満足度を得ていることが必須条件です。「この企業の提案なら間違いない」と信頼を獲得した上で「より高いスペックや多彩な機能・さらなる成果向上」を求めている顧客に対して、的確なタイミングで提案することが、アップセル成功のポイントです。
愛着・信頼度=顧客ロイヤリティを測るには、NPS®(ネットプロモータースコア)という指標を用います。顧客推推奨度調査ともいい、「知り合いにすすめたいと思うか」を0〜10点で評価してもらう方法です。顧客に対してなんとなくアプローチするのではなく、数値をしっかりと可視化して、高得点(9点、10点)の顧客に対して提案をもちかけることで、成約率を高めることが可能です。
カスタマーサクセスの全工程において言えることですが、「顧客のニーズ」を満たすことなくして、顧客満足度の向上はありえません。目先の利益を得ることに躍起になるのではなく、「アップセル・クロスセルを実現することで、さらなる顧客の成功体験につなげる」意識が必要です。それぞれの顧客のニーズに対して「どのようなサービスを提供をすることで顧客の成果を最大化できるか」を精査し、顧客にとって有益な選択肢を提案しましょう。
「顧客のニーズ」を読み取るには「製品やサービスの利用状況」「顧客が創出した成果」「アンケートへの回答結果」など、多角的な行動データの分析や具体的な指標が必要です。顧客は、必要のないアップグレードやオプションの提案を受けても、「押し売りされた」と心証を損なうだけで、せっかく積み上げてきた信頼を失うばかりか、最悪の場合は解約につながってしまう恐れもあります。また対面の場であれば、表情や声からも心理を読みとることができ、コミュニケーションから良好な関係構築も目指せます。
アップセル・クロスセルは、顧客にとって適切なタイミングを推し図ることが大切です。
アップセルにおいては、顧客が「上位プランページを閲覧した」「上位プランの特定の機能にタッチした」などのアクションを起こしたタイミングで提案し、「上位プランの方が有益かもしれない」という考えに誘導します。最初から高機能な製品・サービスをオススメするよりも、抵抗なく受け入れてもらえる可能性が高いでしょう。
クロスセルはすでに製品・サービスを利用している顧客に対して、「これもあったら便利だな」と思わせる仕掛けが必要です。A製品に「相乗効果の得られるB製品」または「別課題を解決するC製品」を追加購入してもらう、といったことが当てはまります。顧客管理ツールを活用して「顧客のある行動に対してはこの提案をする」といったシナリオを設定し、担当者にアラートが届くように設計しておくことで、取りこぼしを防ぎ効率的に成果を出せるはずです。
「ペルソナのカスタマージャーニーにおける行動予測」をあらかじめ設定しておくことは、顧客にとって最適なアプローチのタイミングを理解するのに役立ちますが、タイミングの決定は、あくまでも「実際の顧客の行動データ」をトリガーとして行います。顧客行動データを取得・管理するツールの導入がむずかしい場合は、BtoCであれば「購入」や「契約継続」を決定する時、BtoBであれば「契約更新」や「予算算出」の時期や「部署の新設や事業の拡大で課題解決を必要とするとき」などを目安に、適切なタイミングを見極めるとよいです。
アップセル・クロスセルに注力するがあまり、「カスタマーサクセス」全体の取り組みをないがしろにしては本末転倒です。「顧客が課題を解決し改善につながっているか」「顧客が成果や利益を創出できているか」など顧客目線での現状に基づいて、「いま顧客にとって必要な施策は本当にアップセル・クロスセルなのか」正しく判断する必要があります。
またアップセル・クロスセルは、顧客にさらなる費用を投じてもらう必要のある施策であり、費用相当の期待が乗せられることになります。たとえばアップセルによりオプション機能の追加購入を選択した顧客が「投じた費用に対して想像していたような成果がでない」という結果にならないためにも、「導入後のベネフィット」について適正な情報開示をするとともに、製品やサービスの改善・質向上を続ける必要があります。
顧客の事業に関することはもちろん、部署の課題や目標にしていること、また、顧客が「健全(健康)な状態であるかどうか」を把握し、理解することが大切です。顧客のニーズや課題、ロイヤルティが高い顧客層の特徴、なぜ自社を選んでいるかと言った側面から「どういった製品やサービスを求められているか」を明らかにすることで、顧客にとっても「痒いところに手が届く」質の高いサービスの提供が可能になるでしょう。
それぞれの顧客を深く知るには、顧客情報の蓄積と、それに対する日頃からの分析が必要です。SFA(営業支援システム)・CRM(顧客関係管理)・CSM(カスタマーサクセスマネジメントシステム)など、顧客情報を管理する上で心強い味方となってくれるツールを活用することで、顧客について正確に理解し、「顧客が本当に必要とするサービス」を提供することが可能になります。
近年さまざまな企業がアップセル・クロスセルの重要性に気づき、それぞれの取り組みを行っています。この章ではBtoB、BtoCに分けて、具体的にどのような施策が行われているかを紹介します。
BtoBのアップセル・クロスセルでは、長期目線で顧客を育てていく過程を含む、さまざまな事例があります。
Salesforce(セールスフォース)は、CRM(顧客関係管理システム)の提供からスタートしました。その後、顧客に対する営業活動やマーケティング活動も包括的にサポートする目的で、SFAツールやMAツールの提供も行っています。
顧客管理をするためのツール「CRM」の目的は、「顧客との良好な関係構築」の上での「売上向上」であり、SFA・MAの目的とも合致しているのです。CRMを活用しマーケティング運用をすすめていく上では、「集客から送客」をサポートするMA・「営業活動」をサポートするSFAどちらのツールも避けては通れない道ともいえます。
これらの製品を合わせて導入することで、価格をおさえながら、より精度の高いマーケティング運用を行える、クロスセル施策の代表的な一例です。同社の製品であることから、それぞれのツールのデータ連携をスムーズに行えることも強みでしょう。
Sansanは、名刺管理のクラウドサービスを提供する会社です。企業に日々集まる名刺をクラウド上で一括管理することで、CRMを最適化するサービスです。
Sansanでは、顧客の契約期間や契約プラン、MRRなどをどのくらい利用しているのか、をデータで蓄積しています。そのデータを元に
などの特定の顧客の行動パターンがとられた際に、カスタマーサクセスマネージャー(CSM)に通知がいき、すぐに対応できるように仕組み化がされています。
アップセル・クロスセル施策としては「攻めの活動」といえる取り組みを行っており、
上記のように顧客が特定の行動をとったときに自動的に通知がいくよう、細かく設定しており、そこから商談が派生して受注した割合は15%にも上るといいます。ヘルススコアにおいて健康な状態である企業の案件の70%が追加購入をしている、というデータも出ており、顧客の行動や見られる兆候を確実に効率的にキャッチすることで、アップセル・クロスセル施策に成功しています。
Dropboxは、クラウド上でストレージサービスを展開する企業です。個人ユーザー向けの無料プランでは2GBまで利用でき、さらに大容量・高スペックを求めるヘビーユーザー・企業などの層を有料の上位プランに引き上げることで収益を得るフリーミアム戦略をとっています。
アップセルの取り組みとしては、最初に無料ではじめたユーザーの残りの容量が少なくなってきたタイミングで「上位プラン」への切り替えを案内します。有料プランに加入したユーザーに対しては、ユーザーの利用状況にもとづいて、最適なプランへのアップグレードを提案していく手法です。dropboxを他ユーザーと共有して活用しているユーザーに対しては、複数ユーザーでの生産性向上をうたったプラン、企業に対しては高性能なセキュリティをもつプランを案内するなど、それぞれのユーザーニーズに合わせた上位プランの提案を行っています。
またクロスセルではありませんが、既存のユーザーに対して「新しいユーザーを招待することで容量がもらえるキャンペーン」を実施し、顧客単価向上と新規ユーザーの利用促進も併せて実施しています。
コロナ禍による外出自粛などで、企業のみならず一般にも広く浸透した「オンライン会議システム」Zoomで取り扱われているのは、無料プランも含めて4つのプランです。
有料プランにすることでオンラインMTGの時間制限が緩和されたり、上位プランへ切り替えることで、会議への参加人数の上限が引き上げられたり、ウェビナー機能や電話でのサポートなどが受けられるようになります。事業の規模によってプランを上げることで、より成果の出る使い道を模索できる点からも、顧客が効率的にアップセルをはかれる事例となっています。
「すぐに購買」されることを基本としたBtoCにおける事例でも、顧客をスムーズにアップセル・クロスセルにつなげるさまざまな仕掛けが施されています。ここでは4つの事例を紹介します。
Amazonはアップセル・クロスセルが収益の1/3以上を占めている、といわれるまさに成功事例です。
Amazonではアップセル・クロスセルをそれぞれのセオリーに従ってページ内に巧妙に配置しています。クロスセル施策として、商品ページの上部に「セット販売」「2つの商品をまとめてカートへ」「この商品を購入した人はこちらも購入」など、レコメンド機能による重ね売りを実施しています。
またアップセル施策には、ユーザーが商品検索時にサイト内を回遊することを想定して、ページ下部に同系統の類似商品「下位機種」「上位機種」を表示させています。「この機能はいらないから少し安いこちらにしようかな」「価格を少し上げればこのスペックが手に入るならこちらにしようかな」などと、ダウンセル・アップセルどちらの選択肢もならべて提案する形式は、「押し売り」にならない印象作りにも役立っています。
また膨大なデータの中から商品が見つからない、という事態を回避するため「レコメンドエンジン」というシステムによって、書籍であれば同じ著者や同じジャンルの商品がオススメとして表示されるようになっているのも、購入の機会損失を防ぐ重要な施策のひとつです。
クロスセルの、とても身近でわかりやすい事例としてよく挙げられるのがマクドナルドの販売手法です。セットメニューでの販売だけでなく、セットメニューにすることで値下げするという料金設定にしたり、単品購入の際に「ポテトも一緒にいかがでしょうか」とたずねたりと、顧客が咄嗟に聞かれて答えに躊躇しない価格帯での、気軽なクロスセル戦略といえるでしょう。
また、ポテトやドリンクを「+〇円でMサイズからLサイズにできますがいかがでしょうか」と提案するのはアップセルにあたります。「どうせなら美味しく食べて満足したい」という顧客の満足度につなげながら、収益を向上させる取り組みです。
パナソニックは、「CLUB Panasonic(クラブパナソニック)」という会員向けサイトを立ち上げ、ロイヤリティの高い顧客を増やすことでLTV向上を目指す取り組みを行っています。
パナソニックが行っているのは、「クラブパナソニック」に登録した際、ユーザーが入力した「興味のあるカテゴリー」などの項目を含むデータにもとづいて、ライフスタイルや嗜好にあわせた商品をレコメンドするというアップセル・クロスセル施策です。実際に、会員は非会員よりも年間4万7千円多くパナソニックの商品を購入しているという成果も出ていることから、アップセル・クロスセルはもちろん、企業のブランディング・顧客のファン化に成功していることがわかります。
また各種顧客管理ツールを活用しWebマーケティングを運用することで、ユーザーが現在興味をもって閲覧している商品をピックアップしてメール配信を行い、メールのクリック率は通常の7倍にものぼるなど、満足度を維持し興味を引き付けながら、顧客単価を向上させている事例です。
ホテルの利用客に対しても、アップセル・クロスセルといった施策は行われています。宿泊予約の際に、客室のアップグレードや、アーリーチェックイン・レイトチェックアウトなどの提案を行い、顧客ごとの単価を向上させるアップセル施策があります。
クロスセル施策には、部屋の冷蔵庫に用意されている有料のドリンクをはじめ、素泊まりで予約しているお客様に対して「ディナーやランチ」「プールやジムなどの施設」「スパやマッサージなどのサービス」にクーポンなどを用意することで利用促進するものがあります。送迎サービスなどもよく使われる例で、「せっかく宿泊したのだからよい気分を楽しもう」とサービスを楽しんでもらった上で、確実に収益を向上させる施策を行っています。
アップセル・クロスセルは、コストを最小限におさえ利益を向上させる、現代のビジネスにマッチした効率的な販売手法です。適切なタイミングでニーズを的確におさえた提案をすることで、自社の定期収益の向上につながるだけでなく、顧客と自社とのwin-winな関係構築が実現できるのです。
アップセル・クロスセルの施策を行うにあたっては、「カスタマーサクセス=顧客の成果拡大」を念頭におき、「自社の利益のための押し売り」ではなく「顧客の成果を最大に引き出す目的で行う」という意識が大切です。それぞれのセオリーを理解して、戦略的に取り入れることで、顧客単価向上・ひいてはLTVを最大化し自社のビジネスの成長へつなげましょう。