SaaSビジネスの成長を測る上で欠かせない重要指標、ARPU (アープ)。この言葉を耳にする機会は多いものの、その正確な意味や計算方法、そして具体的な向上施策について深く理解できているでしょうか。ARPUはAverage Revenue Per Userの略で、日本語では「1ユーザーあたりの平均収益」と訳されます。この数値は、自社サービスが顧客一人ひとりからどれだけの収益を上げているかを示し、事業の健全性や収益性を判断するための重要な羅針盤となります。
本記事では、SaaSのカスタマーサクセス担当者に向けて、ARPUの基本的な定義から、混同しやすい「ARPPU」「ARPA」との違い、ビジネスモデル別の計算方法、そして明日から実践できるARPU向上のための具体的な施策までを網羅的に解説します。
この記事は、特に以下のような課題やお悩みをお持ちの方におすすめです。
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目次
まずはじめに、ARPUがSaaSビジネス、特にカスタマーサクセス部門にとってなぜこれほどまでに重要なのか、その基本的な定義と背景から解説します。ARPUを理解することは、自社のビジネスモデルの収益性を正確に把握し、持続的な成長戦略を描くための第一歩です。
ARPUとは、前述の通り「Average Revenue Per User」の頭文字を取ったもので、1ユーザーあたりの平均収益を示す指標です。
算出方法は非常にシンプルで、特定の期間(通常は月または年)の総売上を、その期間のアクティブユーザー数で割ることで求められます。
ARPU = 売上 ÷ ユーザー数
例えば、あるSaaSサービスの月間売上が500万円、その月のアクティブユーザー数が1,000人だった場合、ARPUは「500万円 ÷ 1,000人 = 5,000円」となります。これは、無料ユーザーも含めた全ユーザーから、平均して1人あたり5,000円の収益が上がっていることを意味します。この数値を時系列で追いかけることで、自社の収益性が向上しているのか、あるいは低下しているのかを客観的に判断できます。
近年、多くのSaaS市場が成熟期に入り、新規顧客の獲得競争は激化の一途をたどっています。それに伴い、新規顧客獲得コスト(CAC: Customer Acquisition Cost)も高騰傾向にあり、新たな顧客を獲得するよりも、既存顧客との関係を深化させ、そこから得られる収益を最大化することの重要性が増しています。
ここで中心的な役割を担うのがカスタマーサクセスです。カスタマーサクセスの最終的なゴールは、顧客がサービスを通じて成功体験を得ることを支援し、その結果として顧客生涯価値(LTV: Life Time Value)を最大化することにあります。
ARPUの向上は、このLTVを構成する重要な要素の一つです。顧客がサービスの価値を実感し、より上位のプランにアップグレードしたり、関連するオプション機能を追加(クロスセル)したりすることで、顧客単価、すなわちARPUは向上します。これは、顧客満足度が高まり、チャーンレート(解約率)が低下することと表裏一体の関係にあります。
つまり、カスタマーサクセスが顧客の成功を能動的に支援し、顧客ロイヤリティを高める活動そのものが、ARPUの向上に直結するのです。だからこそ、多くのSaaS企業でARPUが重要KPIとして設定され、その動向が注視されています。SaaSビジネスの成長には、ARPUをはじめとした各種KPIの正しい理解が不可欠です。
関連記事:【SaaSの主要KPI一覧】重要指標とKPI設定方法を解説(完全保存版)
ARPUについて議論する際、必ずと言っていいほど登場するのが「ARPPU」「ARPA」「LTV」といった類似の指標です。これらの指標はそれぞれ異なる側面から事業の健全性を測るものであり、違いを正確に理解し、目的に応じて使い分けることが重要です。ここでは、各指標とARPUの違いについて分かりやすく解説します。
ARPPUは「Average Revenue Per Paid User」の略で、その名の通り課金ユーザー1人あたりの平均収益を指します。
ARPUが無料ユーザーを含む「全ユーザー」を分母とするのに対し、ARPPUは「有料課金ユーザー」のみを分母として計算します。
ARPPU = 売上 ÷ "有料"ユーザー数
フリーミアムモデル(基本機能は無料で、高度な機能は有料で提供するモデル)を採用しているSaaSビジネスでは、この2つの指標を併用することが特に重要です。
例えば、全体のARPUが低くても、一部のヘビーユーザーが生み出すARPPUが非常に高ければ、その課金ユーザー層の行動を分析することで、他のユーザーを課金へと導くヒントが見つかるかもしれません。逆に、ARPPUは高いもののARPUが低い場合は、課金ユーザーの割合(課金率)が低いことを意味し、無料ユーザーから有料ユーザーへの転換(コンバージョン)施策に課題がある可能性が考えられます。
ARPAは「Average Revenue Per Account」の略で、1アカウント(1契約企業)あたりの平均収益を示します。
ユーザー単位で収益を見るARPUに対し、ARPAは企業単位で収益を見ます。特に、1社で複数のユーザーが利用するBtoBのSaaSビジネスにおいて、非常に重要な指標となります。
ARPA = 総MRR(月次経常収益) ÷ 総アカウント数
例えば、A社が10ユーザーで月額10万円のプランを契約し、B社が100ユーザーで月額80万円のプランを契約している場合、ユーザー単位のARPUではその差が見えにくいかもしれません。しかし、アカウント単位のARPAで見れば、B社がいかに収益貢献度の高い顧客であるかが一目瞭然となります。
BtoB SaaSのカスタマーサクセスでは、個々のユーザー満足度向上はもちろんのこと、契約企業全体としてのサクセスを支援し、アカウント単位での利用拡大や上位プランへのアップグレードを促すことでARPAを高めていく視点が不可欠です。
LTVは「Life Time Value」の略で、顧客生涯価値と訳されます。これは、一人の顧客が取引を開始してから終了するまでの全期間にわたって、自社にもたらす利益の総額を示す指標です。
ARPUが特定の期間における「点」の収益性を見る指標であるのに対し、LTVは顧客との関係性全体を通じた「線」の収益性を見る指標と言えます。
LTVの基本的な計算式は以下の通りです。
LTV = 平均顧客単価(ARPUなど) × 収益率 × 契約継続期間
この式からも分かる通り、ARPUはLTVを構成する重要な要素です。ARPUを高めることは、直接的にLTVの向上に繋がります。カスタマーサクセスは、顧客のチャーン(解約)を防ぎ、契約継続期間を延ばすこと、そしてアップセルやクロスセルを通じてARPUを高めること、この両輪でLTVの最大化を目指す役割を担っているのです。
ARPUの基本的な計算式は「売上 ÷ ユーザー数」ですが、より正確な数値を把握するためには、自社のビジネスモデルに合わせた計算方法を用いることが推奨されます。ここでは、代表的な3つのビジネスモデルにおけるARPUの計算方法について、具体例を交えながら解説します。
月額課金制のSaaSビジネスで最も一般的に用いられるのが、MRR(月次経常収益)をベースにした計算式です。
ARPU = MRR ÷ アクティブユーザー数
例えば、ある月のMRRが1,000万円で、アクティブユーザー数が2,000人だった場合、ARPUは5,000円となります。この計算により、プランの価格帯やユーザー数に変動があっても、1ユーザーあたりの平均的な収益性を安定して観測することができます。BtoBの場合は、前述のARPA(MRR ÷ アカウント数)と併用して分析することが一般的です。
サービスの利用料は無料で、広告表示やクリックによって収益を得るビジネスモデルの場合、ARPUは広告の収益性に基づいて計算されます。計算方法は主に2種類あります。
ARPU = (ユーザー1人あたりの平均広告表示回数 × CPM) ÷ 1,000
ARPU = ユーザー1人あたりの平均クリック数 × CPC
これらの指標を分析することで、広告の配置や種類を最適化し、より収益性の高いメディアへと改善していくことが可能になります。
オンラインゲームのアイテム課金や、コンテンツ販売のように、ユーザーが必要な時に必要な分だけ料金を支払うモデルです。この場合、ARPPU(課金ユーザーの平均単価)と課金率(PUR: Paid User Rate)を用いてARPUを算出します。
ARPU = ARPPU × PUR(課金率)
ここで、ARPPU はさらに細かく分解できます。
ARPPU = 平均購入単価 × 平均購入回数
このモデルでは、いかに多くのユーザーに課金をしてもらうか(PUR向上)、そして一度課金したユーザーに、いかに多くの金額を使ってもらうか(ARPPU向上)の両面から施策を考える必要があります。
ARPUの定義や計算方法を理解したところで、いよいよ本題である「ARPUを向上させるための具体的な施策」について解説していきます。これらの施策は相互に関連し合っており、複数を組み合わせることで相乗効果が期待できます。カスタマーサクセス担当者が主体となって推進できるアクションを中心に、5つの施策をご紹介します。
ARPU向上において最も直接的で効果的な方法が、アップセルとクロスセルです。
これらを成功させる鍵は、顧客の利用状況やビジネスの成長段階を正確に把握し、「顧客にとっての価値向上」に繋がる提案を適切なタイミングで行うことです。例えば、特定機能を頻繁に利用している顧客や、ユーザー数の上限に近づいている顧客に対して、より上位のプランがもたらすメリットを具体的に提示する、といったアプローチが有効です。日頃から顧客との関係性を構築し、ビジネス課題を深く理解しているカスタマーサクセスだからこそできる提案と言えるでしょう。
関連記事:アップセル・クロスセルとは?意味や違い・カスタマーサクセスにおける重要性、事例を解説
サービスの料金プランそのものを見直すことも、ARPU向上に繋がる重要な施策です。注目すべきは「価値に基づいた価格設定(Value-Based Pricing)」という考え方です。これは、サービスの提供にかかるコストではなく、サービスが顧客に提供する「価値」を基準に価格を決定するアプローチです。
顧客が解決したい課題や、達成したい目標に貢献する機能は、より高い価格を設定することができます。顧客の利用状況データを分析し、どの機能が最も価値を感じられているのか(=アクティブ率が高いか、特定の業務効率化に貢献しているか)を特定し、その価値が正しく価格に反映されているか定期的に見直しましょう。また、顧客層に応じた複数の料金ティア(松竹梅プランなど)を設けることで、自然なアップセルを促すことも可能です。
ARPUはあくまで「平均」の数値であるため、高単価の優良顧客が離脱(チャーン)してしまうと、その数値は大きく低下してしまいます。したがって、顧客ロイヤリティを高め、チャーンレートを可能な限り低く抑えることは、ARPUを安定・向上させるための基盤となります。
顧客ロイヤリティを測る指標としては、NPS®(Net Promoter Score)などが有効です。定期的にアンケートを実施し、顧客の推奨度やその理由をヒアリングすることで、サービスの強みや改善点を把握できます。特に、批判的なフィードバックを寄せてくれた顧客に対しては、真摯に対応し、課題解決を支援することで、逆にロイヤリティが向上するケースも少なくありません。地道な活動ではありますが、顧客との信頼関係を築き、長期的なファンになってもらうことが、結果として安定した収益とARPU向上に繋がります。
関連記事:NPS®(ネット・プロモーター・スコア)とは?平均値、質問、事例、計算方法をまとめました!
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顧客がサービスを契約した直後のオンボーディング体験は、その後の利用継続率やARPUに極めて大きな影響を与えます。オンボーディングの目的は、単に操作方法を説明することではありません。顧客が「このサービスを使い続ければ、自分たちの課題が解決できる」という成功体験(Ahaモーメント)をいち早く実感してもらうことにあります。
価値を早期に実感した顧客は、サービスの利用が活性化し、より多くの機能を活用しようとします。その結果、上位プランへのアップグレードやオプション機能への関心も高まり、ARPU向上に繋がりやすくなります。チュートリアルの改善、ウェビナーの開催、個別のサポートなど、顧客がスムーズに立ち上がれるよう支援体制を強化することは、未来への投資と言えるでしょう。
これまでに挙げた施策の精度を飛躍的に高めるのが、データ分析です。顧客の属性データや、サービス内の行動ログといったデータを分析することで、画一的ではない、顧客一人ひとりに合わせたパーソナライズされたアプローチが可能になります。
例えば、「特定の機能を利用しているが、関連する便利な機能を使っていない顧客」をデータから抽出し、その機能の活用法をピンポイントで案内する。「利用頻度が低下している顧客」を早期に検知し、能動的にコンタクトを取って課題をヒアリングする。このようなデータに基づいた先回りのアクションは、顧客満足度を向上させ、アップセルや解約防止の機会を創出します。カスタマーサクセス担当者の勘や経験だけに頼るのではなく、客観的なデータに基づいて戦略を立て、実行することが重要です。
これまで見てきたように、ARPU向上のための各施策は、すべて「顧客の成功体験をいかに最大化するか」という一点に集約されます。しかし、これらの施策を限られたリソースの中で、すべての顧客に対して高い質で提供し続けることは容易ではありません。ここに、テクノロジー活用の価値があります。近年、カスタマーサクセスの領域で注目を集めているのがカスタマーサクセスツールです。
多くのカスタマーサクセス担当者は、以下のような課題に直面しています。
カスタマーサクセスツールは、このようなボトルネックを解消するためのソリューションです。Webサービスやアプリケーション上に、プログラミングの知識不要(ノーコード)でチュートリアルや操作ガイド、ツールチップなどを設置できます。これにより、ユーザー自身がシステムの使い方を自己解決できるようになり、オンボーディングの効率化や、問い合わせ件数の削減が実現します。
さらに、ユーザーの利用状況をリアルタイムで分析し、「特定の機能でつまずいている」「新機能をまだ利用していない」といった状況を可視化。そのデータに基づいて、適切なユーザーに適切なタイミングでガイドを表示するなど、パーソナライズされたアプローチを自動化することができます。
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弊社が提供するデジタルアダプションプラットフォーム「Fullstar(フルスタ)」は、まさにARPU向上を目指すカスタマーサクセス部門を強力に支援するツールです。
Fullstarを活用することで、以下のようなARPU向上サイクルを実現できます。
このように、Fullstarはオンボーディングの改善から、データ分析に基づくパーソナライズ施策、アップセル・クロスセルの促進、そしてチャーンレートの低減まで、ARPU向上に必要な活動を一気通貫でサポートします。人の手によるハイタッチな支援と、テクノロジーを活用したテックタッチな支援を組み合わせることで、カスタマーサクセス活動の効果を最大化し、持続的なARPU向上を実現します。
本記事では、SaaSビジネスにおける重要指標ARPUについて、その基本的な定義から計算方法、そしてカスタマーサクセス担当者が取り組むべき具体的な向上施策までを網羅的に解説しました。
最後にもう一度、重要なポイントを振り返ります。
ARPUは、単なる数字として追うべきものではありません。それは、自社のサービスが顧客にどれだけの価値を提供できているかを示す「結果」です。顧客の成功を真摯に追求し続けることこそが、ARPU、ひいてはLTVを向上させ、SaaSビジネスを持続的な成長へと導く唯一の道と言えるでしょう。
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