カスタマーサクセスの施策と聞いて、どのようなものを思い浮かべるでしょうか。サブスクリプション型のビジネスモデルが増え、ソフトウェアも買い切り型ではなくSaaSという形態が多く取られる中、カスタマーサクセスの重要性は年々高まっており、企業によって様々な施策がなされています。
また、カスタマーサクセスという言葉が日本でも広まったおかげで、体系的に施策や体制を学べるようになってきたことは大きなメリットだといえます。各社がどのようなサービスでどんな施策を実施し、成果につなげているかを理解することが、成功への近道にもなるからです。
そこで今回の記事では、カスタマーサクセスに関しての具体的な施策をご紹介します。施策におけるKPIも合わせてご紹介するので、ぜひ理解を深めていってください。
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・カスタマーサクセスの施策を知りたい
・カスタマーサクセスのKPIについて知りたい
・カスタマーサクセスのことを漠然と理解したい
カスタマーサクセスとは、自社の製品やサービスを利用している顧客に対して、導入目的が達成できるようにはたらきかける役割のことです。近年、SaaSやサブスクリプション型モデルにビジネスが大きくシフトしていく中で、重要度が上がってきました。
導入目的の達成を通して継続的にサービスを利用してもらい、自社としての利益も確保する、お互いにwin-winの関係を築くことが最大のミッションです。
カスタマーサクセスの目的は、顧客の成功を達成すると同時に、自社の利益も最大化することです。あくまでも「顧客の成功が目的」という本質を見失うことなく、目先の利益にとらわれないよう施策を検討していきます。
混同されがちなものにカスタマーサポートがありますが、こちらは製品やサービスを利用する際わからないことがあったり不具合があったりした場合などに、顧客自らが連絡することで活用されます。サポートセンターを設置して、顧客のクレームなどを待つ受動的なコミュニケーションが特徴で、不満や問題を解消し、顧客満足度を向上させることが目的です。
対してカスタマーサクセスとは、顧客の成功体験を創出するために能動的にはたらきかける役割のことです。顧客に積極的に連絡をとり、抱える課題を見極め、自社商材でのソリューションを提案します。顧客の成功体験を作った上で、さらにアップセルやクロスセルを獲得し、LTVを最大化することが使命です。
カスタマーサクセスの目的が理解できたところで、実際にどのような施策をとっていけばよいか迷われる方も多いのではないでしょうか。
顧客を成功へ導くための代表的な活動・施策には、オンボーディング、定期フォロー、アップセル・クロスセル提案、プロダクト改善、レビュー対応、ユーザーコミュニティ、ユーザー会・勉強会、コンテンツ作成などがあります。次の章から具体的な施策の内容についてご紹介します。
オンボーディング(on-boarding)とは、顧客が製品やサービスに定着するための初期支援のことです。船や飛行機にはじめて乗る乗組員や乗客が環境へ適応するための支援プロセスにちなんだ名称で、カスタマーサクセスにおいては顧客が製品やサービスを使いこなし自立するまでの支援をさします。
サービス導入期のユーザーのつまずきを防ぎ、ユーザー自身に「これからも利用しよう、契約を継続しよう」と決定してもらうための重要な施策です。ユーザーが一度つまずいて心象を損ねれば、起き上がってまた歩きはじめるまでには多大なリソースが生じます。
オンボーディングがきちんとできているかどうかは、その後の活用率にも大きな影響のある項目です。実際に弊社でも、オンボーディングが完了できなかったユーザーは解約率が高いというデータもあります。
また、具体的な施策としてはチュートリアルやステップメール、ツールチップなどの”テックタッチ”を活用したセルフオンボーディング施策から、ハイタッチ(対面)でのキックオフMTGなどが挙げられます。プロダクトによってオンボーディングに必要な工数や手順が異なるので、自社の顧客がどんなステップを踏めば自立して走れるかをハイタッチで理解し、その後テックタッチに落とし込んでいくとよいでしょう。
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オンボーディングが完了し、顧客が自走しはじめたら、定期的に接点をもつためのフォローが必要です。
従来の買い切り型のビジネスモデルでは、顧客が製品を購入した時点で利益は最大となるため、いわば購入までが勝負ともいえました。サブスク型ビジネスモデルにおいては、購入時点では顧客ひとりに対してかけたコストを回収できないケースがほとんどのため、長期的に契約を継続してもらわなければ利益につながりません。
契約を継続してもらうには、定期的に関わりをもつことで不満を解消し、製品・サービスの利用価値を理解してもらい、顧客満足度をさげないよう維持していくことが必要です。活用方法の提案や疑問点の解消など、顧客のフェーズによって適切なアプローチをとりましょう。
定期フォローの中での施策としては、定期的な学習動画や新機能リリースのメール、目標の定期的なリリースなどが挙げられます。プロダクトが右肩上がりに成長していけば顧客数もどんどん増えていくので、テックタッチ寄りのカスタマーサクセス施策の強化がマストになっていきます。
アップセルやクロスセルを提案する活動です。ある顧客の課題を解決するにあたって、現在契約しているプロダクトのライセンスだけでは不十分だったり、自社が提供できる他の商材が当てはまる場合に提案をします。
アップセル(upselling)は、顧客が契約している商材をさらに高額の上位モデルへアップグレードしてもらうこと、クロスセル(crossselling)は、顧客が契約している商材に関連する別商材を一緒に契約してもらうことです。いずれも、顧客の成果を引き上げ、顧客単価を上げることが目的です。
新規顧客の獲得は、既存顧客の維持に対して5倍ものコストがかかるというデータもあるように、すでに自社サービスを導入している顧客に対して行う施策なので、新規で案件を獲得するよりも非常に効率がよい施策といえます。積極的に取り組んでいきたい活動のひとつです。
アップセルやクロスセルを成功させるコツとしては、あらかじめ中長期の目標を立てておくことです。「1年後や2年後にこのKPIを達成したら、次はこのプランにアップセルし、このサービスも導入してステップアップしていきましょう!」といったポジティブな提案をすることで、自然な形でアップセルやクロスセルに導くことができます。
具体的な施策としては、サービスの活用セミナーや成功事例の共有などが挙げられます。最終的にはハイタッチで提案をすることでアップセルやクロスセルにつながることも多いため、いかに温度を高めてパスできるかがポイントとなります。
カスタマーサクセスの活動の一環として、忘れてはいけないのがプロダクトやサービス自体を見直し、改良していくことです。
顧客に対して質の高いサービスを提供しているかどうかは非常に重要なポイントであり、常に評価を重ねていく必要があります。時代の変化にともなって変化する顧客のニーズに対して、プロダクトを常にアップデートしつづけていく施策は必要不可欠です。
顧客からの声をもとに使いにくい部分を改善したり、必要に応じて新たな機能を追加することで、顧客の目標達成や課題解決に対する貢献度をあげていきます。継続利用してもらってこそ利益をあげられるシステムだからこそ、使い続けてもらうための工夫としてのプロダクト改善は、カスタマーサクセスにおける重要な施策です。
カスタマーサクセス施策のひとつとして定期的なアンケートの実施があります。商材にどの程度満足しているか、どのような不満を抱えているか等、具体的な意見を収集できる貴重な機会です。
顧客の活用状況を把握するためはツールを使った分析でもこと足りますが、顧客が実際にどのように感じているかは、アンケートに回答してもらわないと見えてこない部分が大きいのも実情です。
低い評価に対してはカスタマーサクセス部門によってさまざまな改善策を講じる必要がありますが、意見を製品に反映することによって顧客の解約率を下げるだけでなく、今以上に質のよいサービスの提供につながる可能性も大きくなります。顧客に対しても「顧客のニーズにこたえてくれる」「意見を採用してくれる」等のポジティブな印象を与えることもできます。
近年カスタマーサクセスの中でも注目されている施策のひとつに、ユーザーコミュニティがあります。ファンマーケティング施策の一環でもあり、ユーザーエンゲージメント(顧客体験)を最大化し、ロイヤリティを高める目的で設置されます。働き方のオンライン化も、コミュニティのオンライン化・ユーザーコミュニティの活発化を後押ししています。
「製品サービスを提供するベンダー」対「利用者であるユーザー」だけでなく、「同じ製品サービスを利用するユーザー間」のコミュニケーションが活発になることでロイヤリティをさらに高めるとともに、よりリアルな声をひろいあげることが可能です。
ユーザーコミュニティの開設は、自社サイトを構築する場合もあれば、既存のサービスを利用して手軽にはじめられるものもあります。自社のフェーズや目的に合わせて適切な方法を選びましょう。
カスタマーサクセスの一環としてユーザー会の開催をすすめる企業が増えています。ある製品・サービスを利用するユーザー同士が参加し、勉強会や交流会といった形で催されます。
ユーザー会の目的は課題の解消にととまらず、業界の垣根をこえてユーザー同士が活用方法や成功事例を共有したり意見交換をすることで、製品サービスの理解をより深めてもらうことです。ベンダーから最新の情報を獲得でき、ベンダーに直接改善提案をすること、他社のユースケースを知り新しい活用方法を見出すこともできるため、ユーザーのモチベーションを向上させます。満足度をあげ解約を防ぐだけでなく、ベンダーはサービスの成功事例やフィードバックを回収し、さらなる品質向上に生かしていきます。
ユーザー会は、会社の規模やカスタマー部門の形態によってもさまざまですが、事務局などを設置して会員を募る形で開設されることが多いです。
情報の氾濫する現代においては、カスタマーサクセス施策の中でもコンテンツ作りは非常に需要な要素のひとつです。効果的なコンテンツマーケティング戦略が設計ができれば、それだけで顧客の心をつかみ、エンゲージメントを高めることが可能になります。
コンテンツと言っても、製品サービスのwebサイトから、ブログ、SNS、ニュースレター、動画、ホワイトペーパー、セミナーなど内容は多岐にわたります。さまざまなコンテンツを展開することで幅広い層のユーザーの目にとまりやすくなる一方で、一方的な情報の提示ではユーザーの興味をひくことはむずかしいため、狙いを明確にしカスタマージャーニーのフェーズに則したコンテンツ戦略を立てましょう。
続いては、カスタマーサクセスのKPIについてご紹介します。KPI(Key Performance Indicator)は、カスタマーサクセスを達成するために追うべき指標、目標数値です。カスタマーサクセスの目的や施策が理解できても、具体的にどのようなKPIを置けばよいかわかりにくいという方も多いのではないでしょうか。
実際にプロダクトが顧客の役に立っているかを判断するには明確な指標、KPIを立てることが必須となります。それぞれの項目を確実におさえることで、最終的な目標であるカスタマーサクセスの達成とLTVの最大化につなげます。
カスタマーサクセスを達成するためのKPIには、オンボーディング完了率、アップセル・クロスセル率、ヘルススコア、NPS®(Net Promoter Score)、チャーンレート(解約率)などの項目があります。これらをなぜKPIに設定するとよいかという理由も含めて、次項以降詳しく見ていきましょう。
LTV(Life Time Value/顧客生涯価値)とは、ある顧客が製品やサービスに対して、生涯で総額どれくらいの利益を創出するかを予測するための指標です。長期的、継続的に利用してくれる顧客は「LTVが高い」と表現され、企業が利益をあげていく上で重要な指標となるだけでなく、新規顧客を獲得する際に必要なコストがどれくらいかかるか算出するときの参考指標としても活用されます。
LTVの値を算出する方法は業界によっても異なりますが、一般的なSaaS企業では、ARPU(ユーザー平均単価)÷チャーンレート(解約率)で計算されることが多いです。LTVの値は主にアップセルやクロスセルによる利用価格の向上や解約率の減少によって向上します。カスタマーサクセスがうまく機能しているかを判断するために、KPIに置くとよい項目です。
ヘルススコア(health score)とは、顧客が自社の製品やサービスを継続利用するかどうかを測る指標のことです。顧客の利用状況を健康状態にたとえて可視化し、運用します。定着率・アップセル率・サポートセンターの問い合わせなどを計測して数値化し、おおまかには健康で長生きする顧客=継続利用が見込める・不健康で寿命の短い顧客=解約する可能性が高い、というように判断できるのです。LTVを最大化するうえでは欠かせない指標となるため、KPIとして設定します。
顧客がどのような利用状況にいるのかを正確に把握できることで、顧客ごとに適切な対応ができます。ヘルススコアの値によっては、顧客の解約の兆候をつかんで事前にアクションをとるなどの効率的な対応ができるため、担当者の限られたリソースから対応負荷を減らすことも可能です。
オンボーディング完了率は「オンボーディングが完了した顧客数÷オンボーディング期間の全顧客数」で算出します。オンボーディングには明確なゴールがなく、プロダクトの特徴やカスタマーサクセスの体制によって企業ごとに設けられています。たとえば弊社のサービスBowNowは初期支援として「スタートアッププログラム」を設定しており、終了=オンボーディング完了としています。
KPIとして設定する理由は、オンボーディングを完了していない顧客は、完了した顧客に比べて解約のリスクが高くなるためです。最終的に顧客が成果を達成するためには避けては通れない道であり、また初期段階でオンボーディングに失敗してしまうとその後の関係構築も難しくなります。オンボーディング完了率を一定以上にさげないよう対策をとることは、その後の活用率やヘルススコア・LTV値に大きく寄与します。
アップセル・クロスセル率は、顧客単価にかかわる指標です。既存顧客の契約のアップグレードや、追加購入によって向上するため、顧客とよい関係が構築できているか見極めるのにも大切な要素となります。
カスタマーサクセスを通じて顧客が十分に満足しているからこそ得られる選択肢であり、逆に充分に機能を使いこなせていないユーザーが、アップセルやクロスセルという選択肢をとることは考えにくいといえます。現在成果を得ている顧客が、より一層の成果向上を目的に導入を決定すると予測できることから、アップセル・クロスセル率の高さは、ユーザーが充分に機能を使いこなせている証拠といえます。そのためKPIとして指標に置きます。
NPS®︎はNet Promoter Score(ネットプロモータースコア)の略で、顧客の愛着度を示す、顧客ロイヤルティをはかるための指標です。
NPS®︎は、「この製品やサービスを知人や同僚にどれくらい薦めたいですか?」という質問に対して、顧客に0~10の11段階の値で評価をしてもらう形式です。計算式は、「9~10の高評価をつけた推奨者(%)」ー「0~6の低評価をつけた批判者(%)」で示されます。
自分の知人にどれくらい推奨したいかという数値は、ユーザーが満足してくれている証拠と捉えられるため、有効な判断材料であるとしてKPIに設定します。
解約率(チャーンレート)は解約した顧客の割合を示す数値です。大きくは2つに分けられ、顧客数をベースにした「カスタマーチャーンレート」と、収益をベースにした「レベニューチャーンレート」があります。さまざまな算出方法がありますが、顧客数をベースにしたものが使われる場合が多く、期間を設定した上で「解約した顧客数÷解約前の顧客数×100」で計算されます。
たとえば「カスタマーチャーンレートを何%下げる」といったようにKPIを設定することで、目標達成までの道のりを明確にすることができます。製品やサービスの内容や事業のステージによって、適切なチャーンレートをKPIに設定することで、新規顧客の増加数だけでは判断できないビジネスの成長率をはかることができます。
チャーンレートを下げるためには、顧客の支払いに見合ったサービスを提供できているか、自社の利益優先になり顧客目線を忘れていないかなどさまざまな観点からサービスを見直し、解約率をさげるための対策を講じる必要があります。
カスタマーサクセスの施策にはどのようなものがあるか、カスタマーサクセスのKPIと設定するとよい理由についてお話しました。
「もの」の価値より「体験」に重きを置いた、利用したいときにすぐ利用できるサービスが主流になっていく現代で、カスタマーサクセスはこれからの時代のビジネスに欠かせない視点となるだけではなく、カスタマーサクセス施策の中で得る知識やサポートスキルはあらゆるビジネスにおいて生かされ、さらなるビジネスの発展につながります。
自社のフェーズや課題解決に対して、まずはどのような施策が必要かを見極め、目的に合ったカスタマーサクセスの導入を検討してみてください。