バーティカルSaaS(vertical saas)とは、特定の業界(バーティカル:垂直型)に特化したSaaSツールのことです。業界特有の法制度や業務の流れ・習わしなどに合わせつつ、業務効率化・DX化を推進できるため、ホリゾンタルSaaSではなくバーティカルSaaSを導入する企業が増えています。
「自社の業務には、汎用ツールではうまく対応できない」
「現場の課題にフィットするITツールが見つからない」
こうした背景から、特定業界の業務に合わせて設計された「バーティカルSaaS」に注目が集まっています。SaaSというと、チャットやファイル管理など、誰でも使える汎用型ツール(ホリゾンタルSaaS)を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、今広がりを見せているのは、業界の慣習やフローに対応できる現場起点(ノンデスクワーカー向け)のSaaSで、飲食現場や建設現場、食品などの製造現場、介護や保育、医療現場など様々な業界でバーティカルSaaSが増えています。
本記事では、バーティカルSaaSの特徴やホリゾンタルSaaSとの違い、国内の導入事例までを紹介します。自社の業務に合うツールを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
バーティカルSaaSは「現場で使いつづけてもらう」ことがLTV最大化のカギです。
そのため、ITリテラシーの高くない現場の方でも「導入初期に迷うことなく使い始められる」「新機能を使ってもらいやすくする」といった「プロダクト上でのテックタッチ施策」が重要です。
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目次
バーティカルSaaSは、建設・医療・不動産など、特定の業界に向けて提供されるクラウド型の業務支援サービスです。業界を問わず共通の業務に対応するホリゾンタルSaaSに対し、バーティカルSaaSは各業界の実務や専門用語に合わせて設計されている点が特徴です。
かつては「対象市場が限られる」「導入予算に余裕がない」といった理由から、事業化のハードルが高い領域と見なされてきました。しかし近年では、業務の属人化や人手不足といった構造的な課題を背景に、現場の実態に即したツールとして再評価されるようになっています。
実際、製造・建設・医療といった分野では、いまも紙や電話、FAXを中心とした運用が続いており、作業効率の見直しが求められる場面が多く見受けられます。従来のクラウドサービスでは対応しきれなかった現場固有の仕事にこそ、バーティカルSaaSの強みが発揮されています。
また、海外市場でも成長は加速しており、2024年にナスダックに上場、その年で最大規模のIPOを達成したSaaS企業は、住宅業界向けのバーティカルSaaSでした。業界特化という制約がむしろ差別化の武器となり、新たな市場機会を生み出しているのが現在の潮流です。
参考:SaaS界の大物、職人支援の「ServiceTitan」が大型IPO 赤字でも上場を急いだワケ(NewsPicks)
バーティカルSaaSの活用が進む背景には、従来のITツールでは解消できなかった業界固有の悩みが存在していたことが挙げられます。
1つ目が「人手不足と高齢化」
2つ目が「現場のDX推進」
3つ目が「事業者側の法制度改定への対応」
について解説します。
1つ目が人手不足と高齢化の進行です。なかでも深刻なのが、建設・医療・介護などの業界です。現場を支えてきた熟練人材の引退が相次ぎ、若手の採用も難航しています。結果として業務の属人化が進み、知識や手順の引き継ぎが滞ることで、組織全体の対応力が低下しやすくなっています。
厚生労働省のデータからも、職業全体の有効求人倍率に対して、建築土木や介護医療の分野で軒並み「人手不足」の状態となっていることがわかります。
職業 | 有効求人倍率 |
---|---|
職業計(全体) | 1.18倍 |
建設・採掘従事者 | 5.52倍 |
建築・土木・測量技術者 | 5.97倍 |
介護サービス職業従事者 | 4.12倍 |
保健医療サービス職業従事者 | 3.35倍 |
参考:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和6年11月分)について」より作成
2つ目に、国を挙げたDX推進の流れがあるにもかかわらず、現場レベルのデジタル化は思うように進んでいない点です。ITに不慣れな従業員が多い職場では、汎用的な業務ツールを導入しても、日々の業務にうまく組み込めずに運用が定着しないという問題が発生しています。
3つ目に、法制度の問題です。SaaS事業者からして、汎用的に使えるシステム以上にバーティカルSaaSは法制度の変更に対応しなければいけない機会が多く、それだけの知見とシステム上の設計変更の工数が必要です。
もちろん、業界特化といってもその業界の「人事・雇用・働き方」領域なのか、「業務のデジタル化」領域なのかなどどの領域の課題を解決するかで対応範囲は変わるため、一概には言えません。ただこれだけの法制度改正を、複数の業界にサービス展開しながら対応していくことは難しいこともあり、業界特化で深く入り込み、課題を解決するバーティカルSaaSが普及したとも言えます。
具体的に、2024年改正の建設業界における「第三次・担い手3法」では、工事の品質確保法等の改正と建設業法・公共工事入札適正化法の改正で、幅広い法令改正及び推進事項が定められました。
参考:第三次・担い手3法(品確法と建設業法・入契法の一体的改正)について(PDF)
こうした状況を受け、注目を集めているのが、業界の業務構造や用語に合わせて設計されたバーティカルSaaSです。専門性に即した画面構成や現場の利用を前提とした直感的な操作性により、無理なく定着しやすい点が評価されています。
人材不足に対応しながら、属人化を抑え、業務の質を一定に保つ。そうした現場の要請に応えるかたちで、バーティカルSaaSの存在感が高まっています。
バーティカルSaaSは、業界ごとの業務課題に特化して設計されているため、導入される分野も明確です。特に紙ベースの運用や属人的な作業が多く、これまでIT化が進みにくかった業界で活用が広がっています。
以下は、代表的な分野とその用途の一例です。
分野 | 主な対象業務 | 解決されている課題 | 主なバーティカルSaaS企業 |
---|---|---|---|
医療 | 診療・受付 |
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建設・建築 | 現場管理・施工管理勤怠管理 |
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不動産 | 物件管理・契約 |
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小売・飲食店 | POSレジシフト・店舗運営モバイルオーダー |
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農業・漁業 | 栽培・出荷管理 |
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ホテル | 予約・清掃・接客口コミ管理 |
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製造業 | 生産・品質管理営業管理 |
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保険 | 契約・顧客管理 |
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物流 | 配送・在庫管理 |
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スポーツ | パフォーマンス管理映像分析 |
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金融 | 契約・審査電話面談 |
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教育・保育 | 教務・保護者連携保育園向け業務改善 |
|
これらの業界に共通するのは、現場ごとの業務スタイルに柔軟に対応できるIT環境が求められているという点です。だからこそ、業務の流れや担当者の理解度に合わせて設計されたSaaSが選ばれやすい傾向にあります。
加えて、業界特化型のソリューションを俯瞰すると、ビジネスの主戦場がどこにあるかによって、大きく3つの型に分類できます。
第一に、「業務プロセスの標準化と効率化」の領域です。これは不動産や保険、小売・飲食店、ホテルなどの業界で見受けられ、これまで属人的、あるいはアナログな手法で行われてきた業務をデジタル化し、組織全体の生産性向上を目指すという共通の課題を持っています。
第二に、「現場作業のデジタル化と管理」の領域です。これは建設・建築や製造業、物流などの物理的な「現場」での作業が中心となる業界です。気象や物理的な状況、作業員の動きなど、不確定要素の多い現場の情報をデジタル化・一元管理することで、生産性や安全性の向上を目指すためのSaaSプロダクトが多いです。
第三に、「専門性の高い情報・コミュニケーションの円滑化」です。医療や教育・保育、スポーツなどの業界で、高度な専門知識や、ステークホルダー(関係者)間の密な連携が求められる点が特徴です。専門的な情報の記録・共有や、コミュニケーションの円滑化が課題解決の鍵となります。
これらはすべて、業務の非効率性、情報の分断、知見の属人化といった普遍的な課題に対するデジタル化の答えであり、多くの企業が目指す「業務効率化」と「情報の一元管理」というゴールへと繋がっています。
SaaSは、その用途や設計思想に応じて、大きく2つのタイプに分類されます。ひとつは、特定の業界に特化したバーティカルSaaS、もうひとつは業界を問わず利用されるホリゾンタルSaaSです。それぞれに特徴があり、導入目的や業務環境によって適するタイプが異なります。
ここでは、両者の主な違いについて、3つの観点から整理して解説します。
違い①:業界に特化しているかどうか
違い②:競合の数
違い③:市場規模の大きさ(TAM/SAM)と横展開のしやすさ
バーティカルSaaSは、すでに紹介したとおり、業界ごとの業務に即して設計されたクラウドサービスです。現場での使い勝手を重視し、専門用語や帳票形式、商習慣などに対応している点が特徴です。
一方で、ホリゾンタルSaaSは、特定の業界に依存しない汎用的なツールとして提供されており、幅広い業種で利用されています。代表例としては、Slack、Dropbox、Salesforceなどが挙げられます。社内コミュニケーションや情報管理など、共通する業務に幅広く対応できる点が強みといえます。
補足ですが、米国ではこちらのような分類になるようです。
米国においては、バーティカルSaaSは特定部署特化のSaaSと分類されてきたため、例えばメルマガ配信ツールやタレントマネジメントツールも特定部署で使われるため、バーティカルSaaSに分類されます。
しかし、最近はインダストリーSaaSという言葉がほぼ使われなくなってきているため、定義はあいまいになっているようです。
バーティカルSaaSは、対象となる業界に対する深い理解が求められるため、サービスを開発・提供できる企業が限られます。業界固有の商習慣や制度に対応する必要があることから、参入には相応の準備と時間がかかります。そのぶん、いったん導入されると現場に根づきやすく、競合の数も比較的少ない傾向にあります。
ホリゾンタルSaaSは、機能や価格の比較がしやすく、参入も相対的に容易です。そのため、同じ分野に複数の競合サービスが存在し、差別化が難しくなる傾向があります。価格競争やUIのわかりやすさ、他サービスとの連携機能などが、導入の決め手となることが多く見られます。
バーティカルSaaSとホリゾンタルSaaSで、業界に特化しているかどうかという観点があるがゆえに、この違いが、市場規模(TAM・SAM)や横展開のしやすさに大きく影響します。
TAMとは「実現可能な最大の市場規模」のことで、SAMとは「アプローチ可能な市場規模」のことです。
バーティカルSaaSはそもそも業界特化のため、TAM・SAMが大きく制限されます。ホリゾンタルSaaSであれば、業界に限らず職務レベルや何の課題を解決するかによっておおきくTAM・SAMが変わってきます。
例えば人事・勤怠管理ツールについて、バーティカルSaaSであれば「建設業の法令に特化したアラートが出せる」などの機能が含まれているからこそ、建設業の企業から選ばれやすいといった点があります。一方でホリゾンタルSaaSであれば、そこまでの機能は無いにしろ、食品業界や製造業界など、業界にかかわらず人事担当者向けにアプローチすることで導入企業を増やすことができます。
そのため、基本的にバーティカルSaaSは市場規模は小さく、横展開もしづらいです。またホリゾンタルSaaSは市場規模は大きくなりやすい(課題の領域による)のと、別業界への横展開もしやすいです。
バーティカルSaaS | ホリゾンタルSaaS | |
---|---|---|
市場規模(TAM/SAM) | 業界特化のため小さいその分独占しやすい | あらゆる業界の企業が顧客になるため大きいが、競争が激しい(特に人事・マーケ) |
横展開のしやすさ | 業界特化のため他業界にそのまま展開はできないことがほとんど | 新たな業界や改題への展開も可能、機能追加により業界標準に合わせることも |
SaaSを選ぶ際には、サービスの特徴だけでなく、自社の業務スタイルや導入目的との一致がポイントになります。以下の表では、バーティカルSaaSとホリゾンタルSaaSの違いを整理し、それぞれが持つ強みや使われ方の傾向を項目別に比較しています。
バーティカルSaaS | ホリゾンタルSaaS | |
---|---|---|
対象領域 | 建設、医療、不動産など特定業界に特化 | 業界を問わず、共通業務に対応 |
主な用途 | 工程管理、契約管理、顧客対応など業務そのものに対応 | チャット、ファイル共有、営業支援など横断業務に対応 |
設計の特徴 | 専門用語や業務フローに最適化された構成 | 汎用性の高い標準機能で構成 |
導入のしやすさ | 現場に合っているため定着しやすい | 業務によっては使いこなすまでに時間がかかることも |
競合環境 | 参入障壁が高く、競合は限定的 | プレイヤーが多く、差別化が求められる |
業界ごとの業務に寄り添うのか、汎用的な機能で幅広い業務を支えるのかによって、SaaSの活用場面は大きく異なります。導入の狙いや実際の運用体制に合わせて、自社に合ったサービスを選び取る視点が大切です。
バーティカルSaaSの特徴は様々あり、ここでは3C(市場・製品・顧客)の観点で整理できます。
バーティカルSaaSの特徴一覧
特徴1:【市場】参入障壁が高い分、先行優位性が高い(市場独占しやすい)
特徴2:【市場】業界の法規制に基づいたビジネス戦略が必要
特徴3:【製品】業界に特化した機能開発・サービス展開が必要
特徴4:【製品】専門知識を活かしたサポートが必要
特徴5:【顧客】バイラル(口コミ)で広がりやすい
特徴6:【顧客】エンドユーザーのリテラシーに差がある
各視点から見た特有の構造や運用上の特徴について、自社でSaaSプロダクトを提供しているからこそわかる独自の目線で解説します。
バーティカルSaaSは特定の業界に絞って展開されるため、TAM(想定される全体市場)やSAM(サービスが届く実質的な市場は)は限定的になりがちです。そのため、ホリゾンタルSaaSのような一気に拡大する成長モデルは描きにくい傾向があります。
また業界ごとに紙ベースの運用や根強い慣習が残っていることも多く、SaaSの導入自体がすぐには進まないケースも見受けられます。現場にITへの抵抗感がある場合や、業界独特のやり取りに慣れていないと、新規参入は思うように進まないことが想定されます。
しかし一度導入されて現場に定着すれば、別サービスへの乗り換えに伴う教育やデータ移行の手間が大きく、長く使われやすくなります。導入のハードルが高いぶん、最初に選ばれたサービスがそのまま優位なポジションを維持しやすい構造が生まれやすいのが、バーティカルSaaSの特徴です。
バーティカルSaaSが対象とする業界では、業務運用そのものに法律や業界ルールが密接に関わる場合があります。法制度の変化に合わせて、サービス側も柔軟に設計・運用を見直すことが求められます。
たとえば建設業界では、2024年4月から時間外労働の上限規制が導入されました。月45時間・年360時間以内を原則とし、違反時には罰則や入札資格への影響が生じる可能性もあります。これにより、勤怠管理や労務対応の見直しは避けて通れない課題となりました。
引用:建設業における時間外労働の上限規制について(厚生労働省)
このような背景を受け、建設業向けのSaaSでは勤怠労務管理やコミュニケーション機能といった、法制度と実務の両面を踏まえた機能が重視されています。業務の効率化にとどまらず、制度対応まで見据えた設計が選ばれる条件となってきています。
バーティカルSaaSは、現場で行われる業務内容に合わせて設計される点が特徴です。たとえば、建設業界向けの「アンドパッド(ANDPAD)」では、チャットや検査記録の管理なども含めて、作業に必要な情報を一元管理できる構成が採用されています。
また、不動産業界の場合、情報共有や契約業務の多くが紙やFAXを介して行われてきた経緯があり、対応の煩雑さが長年の課題となってきました。これに対してイタンジ株式会社は、空室状況を自動応答する「ぶっかくん」や、内見の日時調整をオンラインで完了できる「内見予約くん」を提供しています。いずれも、仲介業務の手間を軽減し、やり取りの負担を抑えるツールとして活用されています。
これらのサービスは、業界の商習慣や現場の実態に合わせて丁寧に設計されており、日々の業務に無理なくなじみやすい点が評価されています。システム導入後も継続して使われやすい背景には、現場起点の考え方が根づいています。
バーティカルSaaSの導入現場には、ノンデスクワーカーが多く、紙のマニュアルだけでは対応しきれない場面も見られます。業務の流れや使われ方を理解していないままでは、支援が形だけに終わってしまうこともあります。
そこで、カスタマーサクセスやエンジニアが現場を訪れ、利用状況や困りごとを直接把握する動きが広がっています。ヒアリングだけでは見落とされがちな細かな課題も、現地での観察を通じて実態として捉えやすくなります。
現場DXプラットフォーム「カミナシ」を提供する株式会社カミナシでは、現場ドリブンを企業文化として掲げ、スタッフが顧客のもとに定期的に足を運ぶ支援体制を築いています。利用者からの声は、前向きな意見も、厳しい指摘も含めて社内で共有され、迅速な製品改善につなげられています。
現場に根ざした対話と観察の積み重ねが、サービスの定着と継続利用を支える土台になっています。
バーティカルSaaSが導入される業界では、企業間や現場同士のつながりが深いことが多く、口コミや紹介を通じてサービスが広がる傾向があります。業界団体や協業ネットワークでの導入実績が評価され、「他社でも使われている」という安心感が、新たな導入を促すきっかけになることもあります。
実際に、製薬業界に特化したSaaSを提供するVeeva Systems(ヴィーバ・システムズ)では、ユーザーコミュニティの形成に積極的に取り組んでいます。自社主催のカンファレンス開催に加え、ユーザーが主体となって運営する交流の場も支援しており、製品の認知拡大や利用の定着を支える仕組みを築いています。業界内での転職が多い背景も相まって、複数企業にわたりSaaSが広まりやすい環境が整っています。
トップダウンとボトムアップの両面から導入が進む傾向は、バーティカルSaaSに見られる特有の広がり方といえるでしょう。
バーティカルSaaSが使われる現場では、IT操作に不慣れなユーザーも多く、導入時のつまずきが定着率に影響することがあります。マニュアルを読むことを前提とした設計では伝わりにくく、スムーズに使い始めてもらうには、操作まわりの工夫が必要です。
そのため、バーティカルSaaSはカスタマーサクセスが手厚いことも特徴です。SaaSツール利用時にオンラインMTGでフォローをするだけでなく、現場に足を運んで現場の理解を深めながら最適な活用法を一緒に考えたりなど、深く入り込んだ支援をすることもあります。また、チュートリアルの表示や操作ごとのガイドなど、利用時に迷わない仕組みを整えることが大切です。リテラシーの差に配慮した設計にすることで、運用が定着しやすくなります。
介護施設向けSaaS「ライフリズムナビ+Dr.」を展開するエコナビスタ株式会社では、初期研修の負担軽減を目的に、カスタマーサクセスツール「Fullstar(フルスタ)」を導入。画面上にチェックリスト形式のチュートリアルを表示することで、研修時間を約3分の1に短縮しました。
Fullstarのような支援ツールを活用すれば、操作に迷う場面を減らしつつ、現場ユーザーが自力で使い続けやすい環境を整えられます。
参考:導入初期の操作研修時間を1/3に削減!解約率0.003%を実現するエコナビスタのカスタマーサクセス
バーティカルSaaSには、業界ならではの課題に寄り添えるという特長があります。日々の業務に組み込みやすく、導入後も安定した運用が続けやすい点が魅力です。ここでは、導入によって得られる3つのメリットを解説します。
バーティカルSaaSは、特定の業界で日常的に発生する業務を細かく捉えて設計されています。紙やFAXでのやり取りが残る現場にも対応しやすく、業務のデジタル化を進める助けになります。画面構成や入力手順が実務の流れに沿っているため、初期段階から現場で受け入れられやすく、導入時の混乱も軽減されます。業務の見直しや社内ルールの整理も進みやすくなり、属人化の防止や手戻りの削減を図れます。
業界に即した設計のSaaSは、利用者から「自社のことをよく理解している」と感じられやすく、信頼関係を築きやすくなります。専門的な知識を前提としたサポートも受けやすいため、コミュニケーションもスムーズです。また、法改正や現場の変化への対応もスピーディーに行えることから、安心して使い続けられるのも特長のひとつです。その積み重ねが製品への愛着につながり、継続利用の流れを生み出します。
バーティカルSaaSは、業務の中に深く入り込むかたちで導入されることから、短期間で他製品に乗り換えられることは少なく、長期利用につながりやすい傾向があります。また、導入後の活用が広がることで他部門への展開や新機能の追加が進み、既存顧客の中で契約内容が拡張されていくケースも見受けられます。利用の広がりと継続性が組み合わさることで、LTVの向上が期待できます。
バーティカルSaaSは、業界ごとの業務課題に対応するかたちで導入が進んでいます。ここでは、建設・外食・不動産などの各分野で、現場の業務改善に役立っている代表的なサービスを紹介します。
参考:株式会社アンドパッド
株式会社アンドパッドは、建設現場の業務を一括管理できるクラウド型SaaS「アンドパッド」を提供しています。工程表や図面、検査記録、写真、チャット、原価管理などをひとつにまとめ、関係者間でリアルタイムに情報を共有できる設計です。
建設業界では、紙ベースの工程管理やFAXによる連絡が依然として多く、現場と事務所の情報共有に手間がかかる状況が続いていました。アンドパッドの導入により、写真の整理や報告台帳の作成にかかる時間を削減でき、業務の流れを整える取り組みが進んでいます。
現場での使いやすさを最優先にした設計や、利用者の声をもとにした継続的な改善も特徴です。職種や規模を問わず対応できる柔軟さが評価されており、全国での利用が広がっています。
株式会社ダイニーは、外食産業向けの業務一元化SaaS「All in One Restaurant Cloud.」を提供するスタートアップです。POSレジ、注文管理、キャッシュレス決済、CRMなどを統合したプラットフォームを備え、店舗運営に必要なシステム全体をひとつにまとめている点が特長です。
外食業界では、注文ミスや会計処理、スタッフの業務過多といった問題が顕在化しており、限られた人員で安定した運営を続ける難しさが指摘されてきました。ダイニーのシステムは、モバイルオーダーやセルフ会計の導入により、業務負担を軽減しながら、接客や調理への集中を可能にします。売上や回転率などのデータも自動で蓄積されるため、日々の振り返りや経営判断にも活用できます。
サービス開発においては現場スタッフとの意見交換も継続的に行われており、使いやすさへのこだわりが店舗側からも評価されています。
参考:株式会社いい生活
株式会社いい生活は、不動産会社向けの業務支援SaaSを提供する不動産テック企業です。2000年の創業以来、賃貸・売買・管理など多岐にわたる業務をカバーするサービス群を展開しています。
不動産業界では、物件情報のやり取りや契約手続きにおいて、紙やFAXといったアナログな手法が根強く残っており、情報共有の煩雑さや作業の属人化が課題となってきました。そこで同社は入居者・オーナー向けアプリや営業支援ツール、物件共有のWebプラットフォームなどを提供。業務ごとに使い分けられる設計により、日々の対応をスムーズに進められる環境づくりを支援しています。
現場ごとのフローに合わせた柔軟な機能構成と、定着しやすい操作性が評価され、導入企業の多くで長期利用が進んでいます。契約形態は月額制が中心で、運用のしやすさも業界内で支持される理由の一つです。
参考:解約率0.06%のバーティカルSaaS大手「株式会社いい生活」がFullstarを導入!複数プロダクトで開発工数をかけず、プロダクト内コミュニケーションを促進。
参考:エコナビスタ株式会社
エコナビスタ株式会社は、睡眠解析に基づく見守りSaaS「ライフリズムナビ+Dr.」を提供しています。人感・ベッド・温湿度センサーから得たデータをもとに、入居者の睡眠や起床の状態を自動で検知し、異変があればスタッフへ通知されるシステムです。
介護施設では、夜間巡回の負担や転倒リスクへの対応が日常的な課題となっています。「ライフリズムナビ+Dr.」は必要なときだけ見守りが行えるため、巡回の手間を減らしつつ、事故の発生を防ぐことができます。
取得したデータは介護記録システムとも連携可能で、職員の記録業務を軽減する用途でも活用が進んでいます。導入先からは「夜間巡回の必要が減った」「通知の精度が高く安心できる」といった声が寄せられており、現場業務の見直しにも役立っています。
現場に合った設計と、医師による監修のもとで開発された高精度な解析技術が、多くの介護施設に支持される理由といえるでしょう。
参考:導入初期の操作研修時間を1/3に削減!解約率0.003%を実現するエコナビスタのカスタマーサクセス
参考:保育ICT株式会社
保育ICT株式会社は、「ITを通じて保育業界を笑顔にする」という方針のもと、保育園向けクラウドサービス「はいチーズ!システム」を提供しています。登降園や勤怠管理、連絡帳、指導案の作成など、日常業務を一元管理できる30以上の機能を備えています。写真販売システム「はいチーズ!フォト」と組み合わせることで、追加料金なしで利用できる点が導入のしやすさにつながっています。
保育現場では、年度切り替えや園児情報の整理が短期間に集中し、事務作業の負担が増える傾向にあります。紙やExcelを用いた管理では煩雑になりやすく、人手不足や離職率の高さといった課題も重なり、業務改善の必要性が高まっていました。
「はいチーズ!システム」は、日々の入力業務や情報共有の手間を軽減することで、現場の負担を抑える役割を果たしています。写真や動画を保護者と共有できる機能も備えており、家庭とのやりとりをスムーズにするツールとしても高く評価されています。
参考:セルフオンボーディング率が30%→78%に大幅upし、月20時間の工数削減!担当者が社内MVPを受賞した、Fullstarの活用方法とは
参考:Ubie株式会社
Ubie株式会社は、医師とエンジニアによって2017年に創業された医療SaaS企業です。現在は、医療機関向けの「AI問診ユビー」と、一般向けの「AI受診相談ユビー」の2つのサービスを展開しています。
医療現場では、高齢化と人手不足が重なり、問診やカルテ作成の負担が大きな課題とされてきました。そうした背景を受けて提供された「AI問診ユビー」では、来院前に患者がタブレットで症状に答えると、AIが情報を整理・構造化。医師には診察の下準備シートとして送られ、カルテ作成や問診時間の短縮につながっています。
一般向けの「AI受診相談ユビー」は、PCやスマホで質問に答えるだけで、参考病名や適切な受診先を提示するサービスです。症状を放置してしまうリスクを減らし、早期受診の判断をサポートしています。
医療知識の蓄積と現場視点を活かした精度の高いサービス設計により、専門性の高い医療業界でも信頼を獲得しています。
業界の実情に合わせて設計されたバーティカルSaaSは、従来の汎用ツールでは対応しきれなかった業務課題に応える手段として、建設・外食・医療など幅広い分野で導入が進んでいます。
しかし、業務に適した機能を備えていても、使い慣れるまでに時間がかかる場合は、現場での活用が思うように進まないこともあります。特に導入初期には、「どこを操作すればいいか分からない」「必要な手順を確認するのに手間がかかる」といった声が上がり、業務の流れを中断させてしまう原因になりがちです。
こうした定着の壁に対しては、現場の作業に沿ってサポートできる仕組みが有効です。Fullstarは、ツールの操作に迷いやすい場面へ直接ナビゲーションを設置し、マニュアルを開かずにその場で課題を解決できる環境を提供します。バーティカルSaaSのように機能が専門的になるほど、現場で無理なく使い続けられる状態をどう設計するかが重要になります。
SaaSの価値は、導入後にどれだけ日常業務に根づくかによって決まります。Fullstarは、導入したSaaSが使われ続ける状態へとつながるよう、運用面から現場を支え、LTV最大化にも貢献できるカスタマーサクセスツールとして活用されています。
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