ITシステムは今や企業活動に欠かせない重要な基盤となっており、その適切な運用がビジネスの成功に大きく影響します。そのシステムを有効活用し、障害発生時にも適切な対処ができるよう、わかりやすいマニュアルの存在は不可欠です。しかし実際には、マニュアルの内容が難解であったり使いづらかったりして、結果として活用されないケースが多々あります。本記事では、読まれないマニュアルが生み出すリスクを解説するとともに、誰からも分かりやすく活用されるマニュアル作成のためのポイントを詳しく説明します。
作成したマニュアルが読まれない主な原因は以下の点にあります。
1.1 内容が分かりづらい
マニュアルが読み手に理解されず活用されない最大の理由は、内容が分かりづらいことにあります。分かりにくいマニュアルでは、ユーザーが製品やシステムの機能を十分に活用できずに不便を強いられてしまいます。マニュアル作成時に内容の分かりやすさを意識することが何より重要です。内容がわかりにくい原因は多くあります。はじめにマニュアルに多くの専門用語が散りばめられていると、社内ユーザーにとっては理解しづらいでしょう。なるべく簡単な言葉で説明し、やむを得ず専門用語を使う場合は丁寧に解説する必要があります。また、ユーザーの知識レベルを過大評価してしまうと、前提となる知識なしに理解できない内容になってしまいます。知識がないユーザーが理解を阻害されることのないよう、前提知識は明記して説明する必要があります。さらに操作手順の記載が飛び飛びでわかりづらいとユーザーは諦めてしまう傾向があります。したがって操作手順は丁寧に一歩一歩を追って分かりやすく記載する必要があります。複雑な説明だと、ユーザーは途中で手順を見失ってスムーズに作業を進められなくなります。最後にマニュアル作成時には、重要な情報が書き落とされていないかをチェックすることが重要です。製品やシステムの仕様から必要な情報を逆算し、抜けている部分がないか確認する必要があります。このように、専門用語の多用、前提知識の過大評価、手順の飛び飛び記載、情報の抜け落ちなどが、マニュアルの内容を分かりづらくしてしまう要因になります。できるだけわかりやすい言葉遣い、丁寧な手順説明、情報の網羅性により、読み手にとってマニュアルの内容を分かりやすくすることが何より重要です。
1.2 デザインが使いにくい
マニュアルの構成やレイアウト、デザイン性が悪いと、たとえ内容が分かりやすくても活用されません。項目構成の整理がされていなかったり、ページ遷移がわかりづらかったりすると、ユーザーが求める情報に辿り着けません。読み手目線に立ったナビゲーションデザインとレイアウトを心がける必要があります。また、マニュアル内での検索性に優れていないと、ユーザーが知りたい情報を簡単に見つけられません。可能な限り高度な検索機能を搭載し、気になるキーワードですぐに参照できるよう配慮する必要があります。さらに、テキストだけでは理解が難しい操作手順などの場合、的確な図解や画像で説明することが不可欠です。しかし、説明と合っていない分かりづらい画像があれば、かえって理解を阻害してしまうので、注意が必要です。
1.3 存在自体が知られていない
マニュアルの存在自体がユーザーに知られていないことが少なくありません。優れたマニュアルでも、ユーザーがその存在を認識していなければ、当然ながら活用されることはありません。新製品やシステムを開発・導入する際に、マニュアルについて十分にアピールしていないケースが多いのが実情です。そのため、マニュアルの存在をユーザーに広く認知してもらうための取り組みが重要になります。製品リリース時にマニュアルの存在を告知するだけでなく、継続的な周知活動を行う必要があります。マニュアル自体の品質が高くても、ユーザーに全く知られていなければ意味がありません。優れたマニュアルを作成した上で、さらにそのマニュアルの存在をユーザーに広く周知し、積極的に活用してもらえるよう働きかけていく必要があるのです。
マニュアルが適切に活用されないと、次のようなリスクが生じる可能性があります。
2.1 システム運用ミスによる業務停止
マニュアルの手順を参照せずに運用した結果、重大なミスが発生すると、システム障害による業務停止に直結する危険があります。BCP対策の観点からも、確実にマニュアルが参照できる体制が必須です。
2.2 インシデント対応の遅れによるダウンタイム延長
万が一障害が発生した際、マニュアルに記載された復旧手順が分かりづらかったり、必要な情報が抜けていたりすると、適切な対処ができません。その結果、ダウンタイムが長期化し、業務に重大な影響を及ぼします。
2.3 社内ユーザーからの信頼度が低下
社内ユーザーからの問い合わせに対して、迅速かつ適切に回答をすることができなくなれば、社内サポートや利用しているシステム自体への信頼度が大きく低下してしまいます。社内ユーザーは「サポートに頼れない」と失望し、不信感を持つようになるでしょう。さらに、ユーザーの不満が高まれば、顧客満足度が下がってしまいます。社内業務の生産性や効率が落ち、ユーザーの業務にも支障が出かねません。最悪の場合、社内ユーザーが製品やシステムから離れていってしまう恐れがあります。
2.4 新人教育の効率が悪化
新入社員がマニュアルを理解できなければ、製品の機能やシステム操作方法、運用方法を学ぶことができません。その結果、人材育成の効率が下がり、人的リソースの確保が難しくなります。
2.5 システム投資コストの無駄
優れたITシステムを導入しても、マニュアルがなく社内ユーザーがそのシステムを十分に活用できないのであれば、高額な導入コストが無駄になってしまいます。投資効率の観点からも、システム導入と同様にマニュアル作りも重視されるべきです。
上記のようなリスクを回避し、マニュアルを確実に活用してもらうには、以下のようなポイントに留意した作成が求められます。
3.1 ユーザー視点で具体的に記載
マニュアルは製品やシステムの機能仕様書ではありません。あくまでもユーザーの立場に立って分かりやすく書くことが何より重要です。抽象的な説明ではなく、できる限り具体例を使って操作手順を明確に解説することが大切です。さらに、画面キャプチャなどを多用し、テキストだけでは理解が難しい部分を視覚的に補助することをおすすめします。
章立てやナビゲーションも、典型的なユーザーの行動フローを想定して設計するとよいでしょう。ユーザー目線に立って具体的に書くことで、直感的な操作性と理解度の向上を図れます。
3.2 見やすいデザインを作成
マニュアルのレイアウトやナビゲーションを工夫し、ユーザビリティの高いデザインにすることが重要です。目次構成を整理し、見出しを適切に立て、ページ遷移をストレスなく行えるよう設計する必要があります。検索性の強化も欠かせません。気になるキーワードで素早く参照できる検索機能を実装し、ユーザーが求める情報に確実にたどり着けるよう配慮しましょう。さらに視覚的にも見やすいデザインを目指し、文字の大きさ、行間、画像のレイアウトなども丁寧に設計することが大切です。マニュアルの体裁を整えることで、読者の理解を大きく促進できます。
3.3 マニュアルの存在を積極的に案内
優れたマニュアルを作成しても、ユーザーに対してその存在を認知させることが重要です。そのため、新製品の発表時やサービス改修時など、あらゆる機会を逃さずにマニュアルの存在を社内ユーザーに周知することを推奨します。具体的には、製品紹介サイトやポータルにマニュアルへのリンクを設置したり、定期的な社内向けメールマガジンやイントラ記事を発行したりするのが有効な手段となります。ユーザーに対して、わかりやすい形でマニュアルを提示し続けることが肝心です。
3.4 フィードバックを反映
優れたマニュアルを作り続けるには、ユーザーの声に耳を傾け、フィードバックを随時反映させることが不可欠です。そのため、定期的にマニュアルの使い勝手に関するアンケートを実施したり、ユーザーからの質問やコメントを収集したりする仕組みを事前に整備しておく必要があります。集まった改善要望は真摯に受け止め、分析を重ねてマニュアルに反映させていくことが大切です。マニュアルは改訂を重ねることで、より良質なものへと高めていくことができます。ユーザーの生の声に常に学び続けることが、魅力的なマニュアルを生み出す鍵となるのです。
最近多くの企業から、マニュアル作成の効率化の切り札としてデジタルアダプションツール(DAP)が注目されています。DAPは社内システムの画面上に直接操作ガイドを作成でき、24時間365日対応が可能です。これにより、社内問い合わせ対応時間を大幅に削減できます。また、ノーコードでWebシステムの画面上にガイドを作成できるため、エンジニアリソースを節約しながら、社内ユーザーへのリアルタイムサポートが提供できます。さらに社内ユーザーからのフィードバックもシステム画面上で取得可能でユーザーの声を基にマニュアルを改善していくことができます。Fullstarを始めとするDAPの導入は、社内業務効率化に留まらず、社内全体の生産性と満足度の向上にも貢献します。こうしたツールを活用することで社内業務を効率的に推進し、企業の競争力強化につなげることができるでしょう。
製品やシステムの有効活用とリスク対応のため、わかりやすいマニュアルを社内ユーザーに提供することが非常に重要です。しかし、内容が分かりづらい、デザインが使いにくい、存在が知られていないなどの理由でマニュアルが読まれないと、業務停止や対応の遅れ、社内信頼度の低下などのリスクが生じます。ユーザー視点で具体的に記載し、見やすいデザインを心がけ、存在を周知することが大切です。一方で、マニュアル作成には多大な労力がかかるため、デジタルアダプションツール(DAP)などを活用し、作成業務の効率化を図ることも求められます。ユーザーにわかりやすいマニュアルを提供しつつ、作成負荷を軽減することで、製品・システムの最大活用とマニュアル作成業務効率化の両立を目指しましょう。
