デジタルアダプションとは?メリットやデメリット、推進する上でのポイントを解説

デジタルアダプションとは?メリットやデメリット、推進する上でのポイントを解説

「デジタルアダプション」とは、プロダクトをユーザーが最大限活用できている状態を指します。最近よく耳にはするけれど、「本当に成果はでるのか」「どのように取り組めばよいのか」とお迷いの方も多いのではないでしょうか。

本記事で解説する「デジタルアダプション」は、インターネットやSNSが広く一般的に普及した現代のビジネスにおいて、無視できない要素となっています。アダプションという言葉自体もカスタマーサクセスに従事している方であればご存じかと思いますが、日本での歴史は新しく、国内で取り組まれている例が非常に少ないことも事実です。カスタマーサクセスでは今までいかに解約を防ぐかエクスパンションを増やすか等の議論は盛んでしたが、いかにユーザーに利用してもらうかの議論はあまり多くありませんでした。今後SaaSを提供する中で重要な考え方が「デジタルアダプション」です。デジタルタッチでいかに利用率を高めるかがどの会社でも重要になります。

本記事は、カスタマーサクセスにおける「デジタルアダプション」の取り組みについて、その背景から、メリット・デメリット、具体的なプロセスとポイントを解説していきます。「デジタルアダプション」で成果をあげている企業の事例と、実際に役に立つツールも合わせてご紹介し、すぐに「デジタルアダプション」に取り組めるような内容をお届けします。

カスタマーサクセスにおけるアダプションとは

まず、カスタマーサクセスでよく使われるアダプションについて解説します。
アダプション(Adoption
)とは、直訳すると「適用」や「採用」を意味します。カスタマーサクセスにおけるアダプションとは「ユーザーがサービスの利活用ができるようになるための支援」のことを指します。(顧客の活用フェーズを指す場合もあります)

カスタマーサクセスでは最重要指標であるLTVを意識するあまり、直結する解約率、エクスパンションが重要指標として置かれるケースが多くあります。ところがこれらの指標はいわゆる「遅行指標」で、1年後解約されて初めてカスタマーサクセスの善し悪しが測れるような指標です。では、どのような顧客が解約せず継続利用してくれるのか。オンボーディング期間でそのサービスを使い始める準備ができ、アダプション期間でしっかり機能を活用する顧客こそ継続利用する傾向が高く、解約率に替わる「先行指標」として「アダプション」は注目され始めました。

デジタルアダプションとは

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デジタルアダプションとは、デジタルが活用できている状態を意味します。

カスタマーサクセスにおける「アダプション」と「デジタルアダプション」はほぼ同じ意味を指します。「アダプション」はカスタマーサクセスにおける顧客フェーズや支援そのものを指していることが多く、「デジタルアダプション」は顧客がそのサービスを活用できている状態を指すことが一般的です。

「顧客がそのプロダクトを活用し、価値を最大限享受できている状態」は、サービス提供者側にとっても理想的な状態です。従来はデジタルアダプションを実現するための施策に取り組みたいと思っても、サービス画面の改修に莫大なエンジニア工数を割くことから優先順位が下がることが多くありました。デジタルアダプションは、ノーコードで実現できるツールの登場から日本国内でも一気に注目されるようになりました。

デジタルアダプションは「デジタルが活用できている状態」を、サービス利用者側、サービス提供者側の2つの側面でよく議論されます。

サービス利用者側は「導入したツールをいかに社内に定着させるか」、サービス提供者側は「ユーザーがいかに簡単にツールを使いこなせるか」を目的にデジタルアダプションを推進します。

本記事では主に「サービス提供者」視点のデジタルアダプションについて解説していきます。

デジタルアダプション施策例

「デジタルアダプション」の施策として採用される代表的な例「チュートリアル・ツールチップ・プロダクトアナリティクス」の3つについて解説します。

・チュートリアル

チュートリアルとは、ユーザーが迷うことなく使いこなせるようにサービスの管理画面上に表示するナビゲーションを指します。注目してほしい箇所をハイライト、それ以外をグレーアウトし、吹き出しを用いた説明を行いながら、ユーザーの設定を進めていくことができます。

各機能を紹介したり、行動を導くことで、プロダクトのアクティベーション、アダプション、リテンションの率を向上させることが可能です。デジタルアダプションの施策として最も想起されるのがこのチュートリアルです。

関連記事:プロダクトツアーとは?SaaSツールの初期設定完了率を劇的に上げるために取り組むべき施策

・ツールチップ

ツールチップとは、カーソルやマウスポインタを合わせると出現する注釈・補足情報のことを指します。サービスを利用する際、初めて見る管理画面上でどのアイコンが何を指しているのか、どの機能で何ができるのかを「ユーザーが欲しいタイミング」で届けることができます。

チュートリアルがサービス提供者側の意に沿った流れで進んでいくのに対し、ツールチップはサービス利用者側がマウスオーバーしない限り表示されない仕組みです。ユーザーの体験を損ねることなく、不明点を解消することが可能です。

関連記事:ツールチップとは?~カスタマーサクセスのテックタッチ施策としての活用方法~

・プロダクトアナリティクス

プロダクトアナリティクスは、Webサービスでのユーザーの行動や活用率を把握、分析することを指します。チュートリアルやツールチップがアダプションを促す施策に対し、プロダクトアナリティクスはそもそものサービスの利用率分析を指します。

クラウドでのサービス提供が一般的になったからこそ、ユーザーの行動や活用率を把握することが従来より簡単になりました。アダプションの度合いを定量的に計測するためにもユーザーの行動把握は重要で、各デジタルアダプションの施策を通してどのくらいアダプションが進んだかを分析していく必要があります。

 

デジタルアダプションが重要視されるようになった背景

なぜデジタルアダプションが重視されるようになったのか、背景にある時代の流れや要因について、3つのポイントに絞ってご説明します。

類似製品の台頭による買い手の購買力向上

ここ数年でどのカテゴリにおいても多くのSaaSが登場しました。数年前まではその企業の寡占状態にあった市場も複数のプレイヤーが参入し、既存顧客自身のSaaSに対する選択肢が一気に広がりました。導入後全く使えていなかったり、価値を享受できていなかったりすると、当然顧客は代替ツールの検討を始めてしまいます。せっかく導入してもらった顧客の解約を防ぐためにもデジタルアダプションの考え方が重要になりました。

SaaS市場の成熟

SaaSの市場は現在進行形で急成長しています。2009年頃から日本でもSaaSという言葉が注目を集め始め、2010年代の後半からSaaSの普及が一気に加速してきています。SaaSの利用者側は複数のSaaSを利用することが一般化し「複数のSaaSをいかに使いこなすか」を考えるようになり、提供者側は「新規獲得層がイノベーターやアーリーアダプターからアーリーマジョリティ、レイトマジョリティに変遷し、アダプションをいかに効率的に行うか」を重要視するようになりました。一般的に情報感度が高い層はITリテラシーも高く、アダプションに要する時間も短くなります。逆に周囲の動きに合わせてSaaSの導入を決める層は、ITリテラシーが低く、オンボーディング、アダプションの難易度が一気に上がります。SaaSの成長のためにこれらの層の新規獲得はとても重要ですが、特に成熟している市場においては、リテラシーに左右されず誰でも使いこなせるサービスにする必要が高まりました。

海外でのデジタルアダプションへの取り組み

日本より一足先に、サブスクリプションやカスタマーサクセスという概念が浸透したアメリカの企業では、デジタルアダプションを行うのは一般的です。日本よりアメリカの方がカスタマーサクセスは3~5年進んでいるとも言われています。また、アメリカの調査会社であるガートナーは「2025年までに70%の組織がデジタルアダプションソリューションを使用する」と予測しています。

アメリカのUserpilotが行った2022年の調査結果でも、デジタルアダプション施策の1つであるチュートリアルを画面上に用意しているサービスは全体の85%と出ている。(インタラクティブウォークスルーとプロダクトツアーの総和)

デジタルアダプションは、効率的なカスタマーサクセス施策の1つとして注目を集めていますが、日本古来の「おもてなし精神」からハイタッチを推奨する声が大きく、まだまだ浸透しているとは言えません。またROIでの評価が難しい施策の1つでもあり、取り組んでみたいけど躊躇しているケースも多いのです。

 

デジタルアダプションの実現方法

デジタルアダプションを実現するにあたりどのような方法があるのでしょうか。代表的な3つを紹介します。

プロダクト改善による実現

根本であるプロダクト改善によってデジタルアダプションを実現する方法といえます。

自社開発のサービスであれば社内のエンジニアと協働し、問題となっている箇所を地道に改善して利用率を高めることができます。必要によってはデザイナーとも連携していくことも重要です。エンジニア、デザイナー、テスターと通常の開発フローと同様の流れになるため、根拠なしに試しに一部UIを変更してみるような改善方法は各リソースの観点から効果的ではありません。

サービスの利用状況、ユーザーの動きを分析し、費やす開発工数と得られる効果が見合っているかを確認し、開発するか否かの判断をしていきます。

ノーコードツールによる実現

サービスの根本改善が一定の社内リソースを要するのに対し、ノーコードツールを導入し社内エンジニア工数を使わず、実現する方法があります。

工数削減の観点で言うと圧倒的な差があり、最近はデジタルアダプションの実現方法としてノーコードツールでの実現の方が多くなっている印象があります。ノーコードツールは言葉の通り、サービス内にコードを埋め込むだけでノーコードでサービス管理画面上にチュートリアルやツールチップを表示できるようになります。ノーコードで作成、編集、表示が可能であるため、サービス画面に一部変更があった際も、簡単にチュートリアルの変更ができるようになっております。
ノーコードでデジタルアダプションを実現するツールをデジタルアダプションプラットフォームと言います。

広義の意味でのデジタルアダプション施策

デジタルアダプションは、デジタルが活用できている状態を指すため、広義の意味での施策は多数あります。一般的にはサービス画面内でのチュートリアル等を施策として言いますが、サービス画面外の施策についてもいくつか紹介します。

ステップメール
ユーザーに定期的に活用方法や最新情報などのコンテンツを自動的に配信するメールです。サービスにログインしていないユーザーにも情報を届けることができるので、ログイン率の向上や活用率の向上に繋がります。

マニュアルサイト
サービスの網羅的な機能の説明、ユーザーの不明点の解消を行い、活用率の向上を促すことができます。

オンラインコミュニティ
そのサービスを利用しているユーザー同士でコミュニケーションが取れ、共通の課題解決や更なる活用方法をユーザー間で共有することができます。
オンラインコミュニティを提供することで、そのサービスの利用方法をユーザー同士が学び、利用定着に結びつけることができます。

 

デジタルアダプションプラットフォームのメリット4つ

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ここではデジタルアダプションプラットフォーム(デジタルアダプションを推進するツール)の4つのメリットについてお話しします。

人的工数をかけずに利用率の向上を実現

1つめのメリットは、人によるサポートなしで、サービスの利用率を向上できることです。

従来は、サービスの利用率を高めようとすると、カスタマーサクセスから電話やメールを通し、一定の人的コストをかけて行う必要がありました。サービスの利用者が増えるにつれ、アダプションにかかる人的コストも大きくなり、カスタマーサクセスの中で定期的な接触による利用率の向上は優先順位が落ちていくことが多くありました。
デジタルアダプションの施策ができると、「サービス提供者側のハイタッチによる支援が不要になる」や「ユーザー数増加に応じて支援工数が変動しない」ことが実現可能で、コストを抑えてサービスの利用率を上げることが可能になります。

SaaSはサービス提供後もユーザーへの価値最大化のため、多くのアップデートを行うものです。その特性上、サービス管理画面のUI変更、新機能のリリース等、1~2カ月に1回は発生し、そのたびにユーザーは新しい利用方法を学習する必要があります。

 

理想的なユーザー体験の構築

2つめのメリットは、プロダクト開発では補完できない理想的なユーザー体験を構築できることです。
通常プロダクト開発は、ユーザーのことをとことん考え、どのような仕様であれば使いやすいかを踏まえた開発を行います。しかし、リリースしてみると、特定のユーザーにとっては使いにくいことや、せっかくリリースしたのに全然使ってもらえないこともあります。開発者として「ユーザーにより良い体験をしてもらいたい」と思いつつも、現実的にはそうならないことは少なくありません。
その乖離を埋め、理想的なユーザー体験の創出の手助けをできるのがデジタルアダプションプラットフォームです。

サービスの画面上で表現しきれない情報をチュートリアル等で表示し、ユーザーのサービス理解を促します。また、サービスリリース後の利用率を分析し、「ユーザーがどこで躓いて離脱してしまっているのか」「どの機能の利用率が低いか」などのデータを基に、必要な部分だけ補足情報を付け足していくことができます。

これらはもちろん、開発者側で実装することも可能です。しかし、開発者側は新機能リリースに多くのリソースを割いていることが多く、ユーザー体験向上のための開発は優先順位が下がってしまいます。理想的なユーザー体験の構築のために、開発者のリソースを使わず、ユーザーの反応を見ながら、必要な箇所にだけ即時改善をかけることができます。

 

デジタルでのデータを収集しチャーン(解約)を事前に把握

3つめのメリットは、サービスの利用率を収集し、どのユーザーがどの程度解約リスクがあるか事前に把握し、適切なアプローチができることです。

どのユーザーがどの機能をどの程度利用しているか、月に何回ログインしているか等のデータを収集できるのもデジタルアダプションプラットフォームならではといえます。
すべてのユーザーがサービスを使いこなし、継続的に利用してくれることを目指しますが、どうしても一定数利用しなくなってしまうユーザーは発生します。そのような場合、契約更新タイミングでカスタマーサクセスからアプローチしてもほとんど意味はありません。ユーザーが利用しなくなったタイミングをいかに早く察知し、カスタマーサクセスからアプローチするかでそのユーザーの継続利用が決まります。

デジタルアダプションプラットフォーム(デジタルアダプションを推進するツール)を導入する場合は、上記の利用データも収集できることが一般的です。

 

人カスタマーサポート工数削減

4つめのメリットは、「カスタマーサポート」として機能する点です。
サービスの利用方法が分からないユーザーはサポートセンターへ連絡をします。その連絡を受け、サポートセンターは電話もしくはメールで利用方法を案内し、ユーザーが使いこなせるように導きます。

サポートセンターに問い合わせないと解決しない問題もありますが、ワンタッチ(問い合わせの中で機能についての質問などの簡単な問い合わせのこと。1回の返信で解決できる内容のことを指します。)の問い合わせの多くは、サポートセンターが説明しなくても、「適切な情報が適切なタイミングで」ユーザーに届けば、ユーザー自身で自己解決することが可能です。このユーザー自身の自己解決率を上げていくことができれば、サポートセンターの対応工数を減らすことができ、業務効率化に繋がります。

 

デジタルアダプションプラットフォームのデメリット2つ

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デジタルアダプションプラットフォームを導入することは、カスタマーサクセスにおける多くの課題解決に繋がりますが、デメリットも存在します。


VoC収集機会の減少

デジタルアダプションプラットフォームを導入すると、ユーザー自身の自己解決率が上がるため、ユーザーがカスタマーサクセスやサポートセンターに問い合わせすることが少なくなります。
これは事業運営目線でコストを下げるという点ではメリットではありますが、ユーザーの声を拾いにくくなるデメリットでもあります。ユーザー自身も自己解決できることによりサービス全体の満足度は向上しますが、VOC(Voice of customer)の機会の減少に繋がる可能性もあり、VOCなしでは中長期的なサービスグロースはできません。

良くも悪くも、サービス提供者側とユーザーとの接点が少なくなることを念頭に置き、カスタマーサクセス担当者から直接ヒアリングをする機会を設けたり、サービス管理画面内にVOCを収集するアンケートを用意したり、何かしら対策をする必要があります。

 

カスタマーサクセスオペレーション変更工数

デジタルアダプションプラットフォームを導入すると、カスタマーサクセスのオペレーションも変更する必要性が出てきます。
必ずしも変更する必要はありませんが、より良い顧客体験を作るためには変える方が良いです。例えば、サービスログイン後チュートリアルを通して学習した機能について、再度カスタマーサクセス担当者から説明がある、これは良い顧客体験とは言えません。

デジタルアダプションプラットフォームを導入することで、今まで通り人が説明をする部分と、サービス管理画面上で人の説明なしで学習を促す部分と、分けて考える必要があります。また、導入することで今まで把握することができなかったユーザーデータを把握することが可能になります。そのデータを使い、最適なタイミングでアプローチをすることができるので、「どのタイミングでどのような利用状況であればどうアプローチをするか」を再度設計し直す必要があります。こちらも必ずすべきではないのですが、デジタルアダプションプラットフォームを最大限活用し、より良い顧客体験のためには重要です

 

効果的なデジタルアダプション推進のプロセス

実際にデジタルアダプションプラットフォームを利用して推進する上で必要なプロセスについてご説明します。

カスタマーサクセス業務の棚卸し

まずは現在行っているカスタマーサクセス業務の棚卸しをします。カスタマーサクセスで行っているハイタッチをすべてデジタルアダプションの施策で補うことはほぼ不可能です。デジタルアダプションを実現するために、現在ハイタッチでどのような支援を行っているのか、また今行っていない支援でどのようなことが必要そうかを棚卸しします。

この際、機能別に優先順位をつけておくことも重要です。どの機能の利用をしてくれると特に価値を感じてくれるのか、どの機能を早く利用してもらいたいかなど、そのサービスの機能の中でも優先順位をつけて、どこから施策を取り組んでいくか決めます。

定型業務、非定型業務の分類分け

カスタマーサクセス業務のうち、定型業務、非定型業務の分類分けを行い、デジタルアダプションプラットフォームでカバーできる範囲を決定します。
例えば、カスタマーサクセス業務の中で「その会社に合わせた個別活用提案」をして利用促進を行っていた場合、それをデジタルアダプションプラットフォームだけで実現するのはとても難しいです。カスタマーサクセス業務の中の非定型業務と呼ばれるもので、「ユーザーごとに説明が異なり、人が行う必要がある」業務を指します。デジタルアダプションプラットフォームで、サービス管理画面上で個社毎のサービス利用に関するヒアリングを行い、最適な顧客体験を出し分けていくことには限界があるため、どこまでカバーできるかを決める必要があります。

今は人によるサポートでしか解決しない部分も、パターン化しノウハウを蓄積すれば、デジタルアダプションプラットフォームで推進できるようになるため、まずは現在ユーザーごとに説明が変わらない定型業務から取り組んでいきましょう。

 

よくある問い合わせの把握・分析

ユーザーから多く問い合わせをもらう箇所は「ユーザーが自己解決できず困っている箇所」です。問い合わせをしないサイレントカスタマーも存在するため、問い合わせを多くもらう箇所はデジタルアダプションを妨げている問題の1つです。

サポート部署と連携し、問い合わせの多い部分を分析し、デジタルアダプションプラットフォームを活用し、ツールチップでユーザー自身の自己解決を促していきましょう。


アダプション指標のKPI設定・効果測定

デジタルアダプションは、基本的には「施策を実施したその日のうちに何件かの受注がある」といったように、短期的に収益をあげるための手法ではありません。「収益」「受注」などといったわかりやすい数値を出しにくい施策だからこそ、指標をしっかりと設定するのが大切です。

カスタマーサクセスの最大の目的は「LTV向上」にあるため、LTVに関わる数値を指標と置くことが一般的です。直結する指標として「解約防止」「エクスパンション増加」などがあります。デジタルアダプション施策ではこれらの数値に間接的に寄与することはもちろんできますが、直接的ではないため、指標としては追いつつ、メインで見るKPIは別で置いた方が適切です。

デジタルアダプションにおけるKPIとしてよく用いられるのは「オンボーディング完了率」「アクティブ率」「MAU.DAU」「特定の機能の利用率」「カスタマーサポートへの問い合わせ数」「カスタマーサクセス1名あたりの保有ARR」などがあります。

デジタルアダプションプラットフォームの導入で、サービスの利用データが可視化できるため、利用率をKPIに置くことがあったり、より直接的な業務効率化に繋がったかを見るために工数削減系のKPIを置くことがあったり、導入目的や会社のフェーズにより様々あります。

 

デジタルアダプションのポイント


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デジタルアダプションに取り組む際、疑問となりやすい点や、気をつけたほうがよい点など、実施におけるポイントについて解説していきます。

デジタルアダプションプラットフォームを導入するタイミングを見極める

「デジタルアダプションプラットフォームを導入してみたいけれど、どのようなきっかけで導入するべきか」と悩む方も多いでしょう。基本的にデジタルアダプションの施策は、時間軸におけるすべてのフェーズのユーザーに対して有効な施策であるため、カスタマーサクセスに取り組むタイミングで一度に導入するのが効果的です。

またカスタマーサクセスをハイタッチ中心に構築した場合、あとからオペレーションを変更することに一定の労力を割きます。SaaSのビジネスモデル上、顧客が増え続けることは明らかなので、早めに導入しデジタルアダプションプラットフォーム中心のカスタマーサクセス体制を整える必要があります。

ただサービス自体があまりに未成熟な状態では、使いこなせる状態になってもユーザーが価値を享受できない可能性があるため、デジタルアダプションを推進してもあまり意味がないというケースもあります。

 

理想的なユーザー体験の設計

そもそもユーザーがサインアップしてからどの機能をどう使ってくれるのが理想なのか?をしっかり決めることも非常に重要です。
デジタルアダプションを目指す上で、そのプロセスの設計ができていないと、施策の一つ一つが分断され、あまり大きな成果を見込めません。

また、「サービス提供者視点の理想的なユーザー体験」ではなく「サービス利用者視点の理想的なユーザー体験」を意識することが重要です。サービスを初めて利用するユーザーがどんな人なのか、どんな感情を抱いているのか、何に感動するのか、ユーザーインタビューやプロダクトのアクセスデータを見ながら設計していく必要があります。「サービス提供者視点のユーザー体験」でよくある失敗が「コンテンツ過多によるユーザー体験の悪化」です。サービス提供者からすると、自分たちが開発した素晴らしいサービスの素晴らしい機能をたくさん知ってもらいたいという想いから、多数のコンテンツをユーザーの望まないタイミングで送ってしまいがちです。もちろんコンテンツ次第ではありますが、逆にユーザーの体験を損ねることが多くあります。

デジタルアダプションを推進する上で、最も難易度が高く、最も重要な部分です。一度設計したら終わりではなく、常にユーザーの動きを確認し、理想的なユーザー体験を作り続けることが重要です。

 

ユーザー本位な言葉選び

サービス利用者が理解できる、なじみのある言葉選びも重要です。サービスの管理画面でユーザーが一目で分かるようなボタン、もしくはツールチップでマウスオーバーした際に補足文言が出てくるような仕組みを作りましょう。

極端な例で言うと、海外のサービスを利用する際、多くの人が日本語対応している画面の方が利用しやすいと感じると思います。サービスを利用したいという温度感が高い段階でも画面上の言葉が何を意味しているのか分からない、理解できない状況が続いてしまうと、離反してしまいます。

弊社の提供しているサービスでも、チュートリアルの文言を変えただけで、機能の実施率が20%以上向上しました。特に、リテラシーがあまり高くないユーザー層が多いサービスで意識すべきポイントです。


ユーザー任意のタイミングでのチュートリアル実施

デジタルアダプション施策の1つであるチュートリアルは、ユーザー任意のタイミングで開始でき、ユーザー任意のタイミングで終了できなければなりません。こちらもサービス提供者からすると「このチュートリアルを通して機能を理解してほしい」といった思いがあると思います。しかし、必ず設定を行ってもらう必要がある機能以外で、ユーザーに選択肢を与えないチュートリアル体験は不快です。

ユーザーがチュートリアルを開始したいと思うタイミングでチュートリアルを開始できるような「オンボーディングチェックリスト」を画面端に用意し、チュートリアルを終了したいと思ったタイミングで終了できる「スキップボタン」を用意し、ユーザーの体験を損ねないようなチュートリアル構築を行います。

 

インタラクティブウォークスルーの活用

チュートリアルの一種で、「説明を出しながらユーザーに入力を促し、特定の設定を進めていく」ものをインタラクティブウォークスルーと呼びます。ただチュートリアルで学習をしてもらうだけでなく、学習しながら設定を進めていってもらうことを目的としたチュートリアルです。海外のサービスでもよくこのインタラクティブウォークスルーのチュートリアルが採用されています。(後述するガイドツアーよりインタラクティブウォークスルーの方が良いともされています)

インタラクティブウォークスルー型のチュートリアルを作成すると、説明工数の削減と設定率の向上を同時に期待できます。弊社が提供するBowNowというサービスで実施した際は「47%の説明コスト削減」に成功し、設定完了率も実施前と変わらないという成果に繋がりました。人が説明し、設定の案内を行うようなチュートリアルを画面上で再現することができます。

 

ツールチップの活用

ツールチップとは端的に、「カーソルを合わせた時に出現する補足情報」のことを指します。ツールチップはユーザーがマウスオーバーした際にのみ表示されます。
デメリットとしてはせっかく作成してもユーザーに見られない可能性があることで、メリットはユーザーの体験を損ねず補足情報を伝えデジタルアダプションを推進することができることです。

ツールチップが有効なケースは「入力ミスが多い項目」「一目では分からないボタンや言葉」「特定のユーザーが必要とする情報」などがあります。ユーザー主導なデジタルアダプション施策であるからこそ、上記ケースで有効活用が可能です。チュートリアルとツールチップどちらも善し悪しがあるので使い分ける必要があります。

 

ガイドツアーの活用

チュートリアルの一種で、「ユーザーに入力や作業を促さない機能説明」をガイドツアーと呼びます。サインアップ後最初に表示をするウェウカムツアーもガイドツアーにあたります。
サービスの管理画面上に複数の機能やメニューがある際に一通りの簡単な説明をチュートリアルとして行います。ユーザーは説明を見た後、次へボタンを押してツアーを進めていくことが一般的です。ガイドツアーは、完了後ユーザーが操作することを前提に作られているため、設定完了まで促せないことがデメリットとされています。その反面、インタラクティブウォークスルーと比べ、チュートリアルの完遂率が高く、届けたい情報を確実に届ける点はメリットと言えます。

 

Time to Valueを意識した設計

Time to Valueとは、「ユーザーがサービスを利用開始してから、価値を享受するまでにかかる時間のこと」を指します。この時間が短ければ短いほど良く、オンボーディング完了率、アクティブ率、有料転換率、アダプションすべての数値を向上させることができます。

例えば、弊社の提供する「ActiBook」というサービスでは、有料プランユーザーと無料プランユーザーでTime to Valueが3倍以上違います。(有料プランの方が短い)

すべてのユーザーは、サービスを利用する際に一定の期待値を持って利用を開始します。そして、その期待はサービス提供者側が思っているほど長続きせず、利用開始後上手く活用できない状態が続くとすぐに離反してしまいます。その期待値を下げない間に、サービスの価値をいかに享受してもらうかがとても重要です。デジタルアダプションはサービスが活用できている状態を目指します。その前の段階で離脱してしまうユーザーも一定数いるため、デジタルアダプションを推進する上で、Time to Valueをどれだけ短くし、活用できている状態に繋げていくかが重要です。

まずは価値を享受するまでに平均でどのくらいの時間を要しているか分析し、短くしていく施策を展開する必要があります。

 

PQLに導く導線設計

PQLとは、”Product Qualified Lead” の略語で、無料トライアルやフリーミアムを通してプロダクトの価値を体験したユーザーを指します。(参考: PQL(Product Qualified Lead)とは?~PLGを目指すSaaSの重要指標について~)

PQLは主に、フリーミアム、フリートライアルを採用しているサービスで使われており、SaaS企業は、この基準を明確にすることで見込み度の高い顧客を獲得することができます。

デジタルアダプションはカスタマーサクセス文脈で語られることが多いのですが、フリーミアムで展開しているサービスであれば、このPQLにいかにユーザーを導いていくかを念頭に置いたデジタルアダプション施策の設計が必要です。

 

BtoBでのデジタルアダプション成功事例3選

クラウドサーカス株式会社

クラウドサーカス株式会社は、デジタルマーケティングSaaS「クラウドサーカス」の開発・販売及び、デジタルマーケティングに関するコンサルティング・受託業務を行っている会社で、自社開発のSaaSを10以上提供しています。

フリープランから提供しているプロダクトも多くあり、ハイタッチだけではリソース的に充分なサポートができず、ユーザーによってはサインアップして活用しないケースもありました。

デジタルアダプションの施策としては、ウェルカムツアー、ツールチップ、インタラクティブウォークスルー、オンボーディングチェックリストなどを画面上に用意し、ユーザー自らが学習し、デジタルアダプションできるような仕組みを作っています。

取り組み始めてから、「サポートへの問い合わせ数の削減」「カスタマーサクセス工数の削減」「アクティブ率の向上」「PQL率の向上」「フリープランから有償プランへの有償化率向上」など多くの効果が出ています。



HRクラウド株式会社

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HRクラウド株式会社
は「企業の採用インフラを担う」というビジョンの下、HRテック事業としてSaaS(「採用一括かんりくん」)とクロスセルサービス(「新卒人材紹介」)を展開しています。 「採用一括かんりくん」というATS(Applicant Tracking System)を提供している会社です。

新規導入顧客が増加する中でカスタマーサクセス部門だけで問い合わせ対応がひっ迫している中で、デジタルアダプションに取り組み、ユーザー自身で問題解決でき、使いこなせる状態になることを目指しました。

デジタルアダプションプラットフォームを導入し、問い合わせ対応工数の削減に繋がり、ユーザーのアダプションを推進することができています。

 

株式会社リザービア

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株式会社リザービア
は理美容とリラクゼーションサロン向けのWEB予約システム「リザービア」を提供している会社です。(4,500店舗以上の利用実績)

プロダクトビジョンに「集客できるお店づくりを支える」を掲げ、リピート率を最大化する自社集客の支援を行っています。

カスタマーサクセス担当がすべてのユーザーに1to1MTGを行い、デジタルアダプションを目指していたが、顧客数の増加に伴い、対応リソースが足りなくなる問題が発生しました。

デジタルアダプションプラットフォームを利用することで、KPIである初期設定完了率はほぼ100%となり、すべてのユーザーがプロダクトを利用できる状態に成功しました。

 

デジタルアダプションとはまとめ

本記事ではデジタルアダプションの基礎的なところからメリット・デメリット、事例、について解説しました。

デジタルアダプションは最近注目を集め始めたため、国内ではまだ事例が多くありません。また、直接的に売上を上げるような施策でもないため、優先順位が上がらない会社も多いかと思います。ただ、デジタルアダプションは、ユーザー・提供者双方にメリットがあり、本来SaaSが目指すべきところです。

サービス提供者側は、導入してもらって終わりではなくデジタルアダプションを目指し、カスタマーサクセスを推進しましょう。

 

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