システム導入や開発プロジェクトの成否は、実は“設計”よりも前の段階で決まっていると言われています。
その鍵を握るのが「システム企画」です。システム企画とは、業務課題を洗い出し、ITで解決するための構想を描く“超上流工程”のこと。目的を曖昧にしたままプロジェクトを進めてしまえば、現場にフィットしないシステムが出来上がり、投資の成果も上がりません。
この記事では、システム企画の基本から進め方、成功のポイントまで、具体的にわかりやすく解説します。
目次
システム企画とは、業務課題の洗い出しから、解決手段としてのIT活用を検討する「超上流工程」のことです。システム開発や導入に入る前の段階で、現状の課題と業務プロセスを整理し、「どんな目的で、どんな仕組みが必要か」を明確にします。ここを曖昧にしたまま進めると、要件定義がブレたり、導入後のミスマッチが発生したりするため、プロジェクト成功の鍵を握る重要なフェーズといえるでしょう。
「思ったような機能じゃなかった」「現場が使ってくれない」「コストが膨らんだ」などといったシステム導入の失敗例の多くは、企画段階での設計ミスに起因します。現場のニーズや業務フローが正しく把握されていなければ、要件もブレやすく、結果として“作り直し”や“形骸化”につながってしまいます。システム企画は単なる事前準備ではなく、プロジェクト全体の土台を作る工程なのです。
システム企画は以下のようなステップで進めるのが一般的です。
①現状分析（業務プロセスの可視化）
②課題の抽出と優先順位の設定
③ユーザー・関係者ヒアリング
④システム化の可否や実現手段の検討
⑤構想書・企画書の作成
これらを丁寧に行うことで、具体的な要件定義へスムーズにつなげることができます。大切なのは、いきなり「システムありき」で考えないことです。
まず取り組むべきは、現行業務の棚卸しです。部署ごとの業務フローや課題点、使われているツールや手作業の有無などを整理し、現在の業務プロセス（As-Is）を可視化します。この段階では、「何が問題か」を正しく理解することが重要で、システム化の前提となる“今”を把握することがゴールです。
現状を整理した後は、業務課題を具体的に洗い出します。単に「非効率だ」という主観ではなく、どこに無駄があるのか、エラーが起きやすいのはどの部分か、数値や事実に基づいて分析します。また、課題の重要度や緊急度をもとに優先順位をつけることで、システム化すべき領域が明確になります。
システム企画において最も重要なのが、現場・利用部門の声を聞くことです。机上の理論ではなく、実際の業務フローに即した情報を集めるためには、現場担当者・マネージャー・経営層など多様な立場の関係者からヒアリングを行うことが不可欠です。これにより、実務と経営戦略の両方にフィットした企画を描けるようになります。
課題に対して、すべてをシステムで解決しようとするのは早計です。中には、業務フローの見直しや手順の簡素化だけで改善できる場合もあります。ここでは「何をシステム化すべきか」「何は業務改善で対応すべきか」を切り分ける視点が求められます。また、新規開発かパッケージ導入かといった選択肢も同時に検討します。
最後に、これまで整理した内容を「システム企画書（構想書）」として文書化します。この企画書は、社内稟議やベンダーへの説明資料、関係者との共通認識形成のための基盤となります。目的、背景、現状課題、期待する効果、導入スケジュール、概算予算などを含めて、わかりやすく整理することが大切です。
システム企画を成功に導くには、単に手順を踏むだけではなく、“質”を高めるための視点が必要です。ここでは、実務の現場で特に重要とされる3つの力をご紹介します。
システム企画では、経営方針に沿った構想であることと、現場の業務にフィットしていることの両立が求められます。そのためには、どちらか一方の声だけでなく、経営層と現場の双方を“巻き込む力”が不可欠です。初期段階から関係者を巻き込み、合意形成を図ることで、導入後の浸透や運用もスムーズになります。部門をまたいだ横断的な調整役として、企画担当者がリーダーシップを発揮することが鍵です。
現場の課題や要望を、ITベンダーや開発チームに正しく伝えるためには、業務とITの“橋渡し”をする翻訳力が必要です。たとえば、「二重入力が多くて大変」という声を、「一元化によるデータベース統合が必要」という技術要件に置き換えるなど、言語のギャップを埋める力が求められます。このスキルがあることで、要件定義の精度が高まり、無駄な開発や認識のズレを防ぐことができます。
「●●というツールを導入したい」という要望をそのまま受け入れるのではなく、「なぜ必要なのか」「何の課題を解決したいのか」と、課題の本質を深掘りする姿勢が大切です。手段と目的が逆転すると、システムは導入できても成果が出ない“形だけのIT化”になりがちです。本当に解決すべき課題にたどり着けるかどうかが、システム企画の質を決定づけます。
システム導入において、すべてをSIerに任せるのではなく、自社が「企画の主体」となることが重要です。業務を熟知しているのは自社であり、ベンダーに明確な方向性を示せなければ、最適な提案も得られません。現場部門と情報システム部門が連携し、自社内で“課題を言語化できる力”を育てることが、今後のIT投資の成功に直結します。
システム企画書（または構想書）は、社内の合意形成や予算確保、ベンダーへの発注資料としても活用される重要なドキュメントです。記載内容は「目的」「背景」「現状課題」「実現手段の方向性」「期待効果」「概算コスト」「スケジュール感」など。曖昧な表現を避け、関係者が同じゴールを共有できるよう設計することが大切です。
どれだけ優れたシステムを企画・導入しても、実際に現場で使われなければ意味がありません。多くの企業で見られるのが、「操作が難しい」「現場が慣れない」といった理由でツールが定着せず、結局“使われないシステム”になってしまうケースです。こうした課題を解決する手段として、今注目されているのがDAP（デジタルアダプションプラットフォーム）です。
DAPは、システムの画面上に直接ナビゲーションや操作ガイドを表示し、ユーザーが“使いながら学べる”環境を提供します。マニュアルや研修に頼らず、自然な業務フローの中で操作習得を促せるため、システムの定着と活用を飛躍的に向上させることができます。システム企画・導入の最終ステップとして、DAPの活用は今後ますます重要になると思います。
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