ハイタッチとは?カスタマーサクセスのタッチモデル「テックタッチ」「ロータッチ」との違いや手法、具体例を解説

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カスタマーサクセスという言葉が耳慣れた昨今、顧客を分類するタッチモデルのひとつ「ハイタッチ」について、耳にするもののよくわからないという方も多いのではないでしょうか。

本記事では、それぞれのタッチモデルや分類するメリットをはじめ、ハイタッチに適した顧客や具体的な施策、実施のポイントや事例などもご紹介して、「ハイタッチ」についてより理解を深めていただけたらと思います。

カスタマーサクセスとは

カスタマーサクセス(Customer Success)とは、直訳すると「顧客の成功」を意味し、「顧客を成功に導くための施策」を行うことで、「自社の利益を最大化する」目的で取り組む活動・役割のことを指します。カスタマーサクセスはCSとも表記されます。

カスタマーサクセスは、ここ数年のビジネスで、SaaS企業やサブスクリプション型の課金体制が急増したことで注目を集めています。従来の買い切り型のビジネスモデルが「買っていただくまでが勝負」であったのに対して、「買っていただいた後が勝負(いかに継続して利用してもらえるか)」となるサブスクリプション型ビジネスモデルにおいて、とても重要視されるようになった考え方です。

「買い切り型」のビジネスモデルでは最初に一括で支払いをするため、顧客の購入・契約後は「カスタマーサポート」という部門で、生じたトラブルに対して受動的に対処することで済んでいました。しかし購入・契約当初に収益を回収できない「サブスクリプション型」ビジネスモデルにおいては、顧客にプロダクトを使い続けてもらうために能動的にはたらきかけ、成功をサポートしていく必要があります。

まだまだ新しい分野であるカスタマーサクセスの取り組みは、施策やその成果の計測が難しい・成果を出しにくいと難易度が高いとされる反面、成功すれば顧客が「自社のプロダクト・サービスなしでは生きていけない・事業が成り立たない」という状態を作り出し、優位にビジネスを組み立てられるでしょう。

カスタマーサクセスの提供方法~3つのタッチモデルと横断タッチモデル~

顧客を分類した「3つのタッチモデル」に対して、それぞれに最適なカスタマーサクセスの提供方法、またこの3つのタッチモデルを横断する手法について、合わせて解説していきます。

カスタマーサクセスのタッチモデルとは

タッチモデルとは、自社の顧客を3つの階層に分類して、カスタマーサクセスを提供する手法です。

3つのタッチモデルは、「ハイタッチ」「ロータッチ」「テックタッチ 」と呼ばれます。タッチモデルは、顧客やその対応に優劣をつけることが目的ではなく、それぞれの顧客に合ったより最適な対応を行うための施策です。

すべての顧客に同じように有人対応を設けることは、理想的ではあっても、非効率的かつ現実的ではない方法です。したがって分類の方法は、人的リソースの使い方に応じて行います。具体的には LTV(顧客生涯価値) やポテンシャル(見込み度合い)を軸に顧客を分類して、それぞれの層に適切なアプローチを行うことで、コストパフォーマンスを最大化できます。

タッチモデルを設定することで、自社顧客のセグメンテーションができることから、セールス戦略やビジネスモデルの最適化にも貢献するでしょう。

ハイタッチ

ハイタッチとは、「LTVが高く、自社の収益に大きく影響を及ぼす大口顧客のこと」を指します。基本的には、すべてのやり取りが個人単位(個別対応)で行われます。対面・電話・1対1のWeb会議などを活用し、ある程度のコストを投じて、専任担当者がきめ細やかなサポートを行うことで、エンゲージメントを高めていく必要があるからです。

企業にとって、もっとも価値が高い顧客のみを対象としている点が特徴で、取引規模が大きかったり知名度が高かったりと、LTVに大きく貢献することが期待できる顧客層です。自社の顧客企業を代表する存在であり、最も重要度が高く、数としては一番少なくなります。

ハイタッチでの支援は、「個別の目標設定や進捗の確認などによる定期サポート」「機能のカスタマイズ」はもちろん、従業員数が多い企業では社員教育の分野に携わるなど、非常に多岐にわたります。このようなアプローチ・コミュニケーションを介して、顧客の潜在ニーズを深く理解し、またデータを用いてリスク管理を行います。ハイタッチ層への支援で得た知見を汎用化することで、すべてのタッチモデルにおいて有効なサポートのモデルを得られるでしょう。

ロータッチ

ロータッチモデルが対象とするのはハイタッチとテックタッチの中間にあたる顧客です。ハイタッチのように個別での対応をするわけではなく、1:n(多数)の集団的な接点づくりによって、ユーザーに対してサポートを行っていく方法で、ハイタッチに比べて効率性を重視した施策といえます。たとえばセミナー開催や、すでに契約を結んでいる企業向けにワークショップ・勉強会などを行い、この時点で高い体験価値を与えることで、エンゲージメントを高める目的で行います。

ロータッチは、「ハイタッチ」と次項で説明するテクノロジーを活用した対応「テックタッチ」の混合で両方の要素を用いて、複合的な支援を行っていくのも特徴で、優先度・顧客層もハイタッチの次にあたる顧客層です。つい優先度が高いハイタッチの顧客層の対応に注意がいきがちになりますが、ロータッチ支援の最適化は顧客の成功=LTV最大化のカギともいえるでしょう。

ハイタッチ・テックタッチの両方の施策を併用したハイブリットな対応が求められ、「適切なコミュニケーションチャネルの設定」「顧客の成功や継続を実現するための汎用性のあるプロセス設計」など、ロータッチならではのスキルが必要になります。具体的には、メールやWebコンテンツを活用して支援しながら、必要に応じて個別に対応していく手法をとります。

テックタッチ

テックタッチ は、1顧客あたりの単価や収益はそこまで高くない顧客に対して、直接のアプローチはせず、ツールやテクノロジーを活用することでサポートする施策です。適切なタイミングで必要なカスタマーサクセスを届けるために、データを活用して行います。

テックタッチの施策例はウェビナーをはじめ、ツール自体に学習ガイドを搭載しているものもあります。Webサイト上のチュートリアル・チャットボットによる自動対応・FAQ・セグメント別でのメールマガジン・ブログや動画などのコンテンツ作成もこれにあたるでしょう。提供する情報を一定の品質に保ち、基本的に人手を介さないため、顧客側が時間を選ばず活用できるのもメリットです。

テックタッチモデルの顧客の一人ひとりの価値は、戦略的にも金銭的にも大きくありませんが、全体としてベンダー企業の収益の大きな役割を果たします。一人ひとりの契約規模は小さいとは言え一番数が多い層であり、一般的にコンシューマー企業向けのカスタマーサクセスはテックタッチメインになることが多く、顧客数が多くなっても隅々までサポートを行き渡らせられる点も相性がよいです。接点が希薄になることからチャーンの確率が高い点は注意が必要ですが、テックタッチ層のチャーンレートをさげることに成功することで、LTV最大化に大きく貢献できます。

コミュニティタッチ

コミュニティタッチとは、顧客同士がつながる場づくりによって、ユーザー間や、ユーザーとベンダー間での関係構築を実現する仕組みです。前項までにご紹介した「ハイタッチ」「ロータッチ」「テックタッチ」すべてのユーザーがプロダクトを通じてコミュニケーションをはかることで、新たな価値を共創し、自社やサービスへの愛着を高めてもらう目的で行います。

プロダクトの機能性について気兼ねない議論をもつことや、ハイタッチ層の企業のノウハウをリアルタイムで共有し、質問しあえる環境をつくることで、ユーザー同士が自走して課題解決できるようになるのも大きなメリットです。

具体的には顧客専用のコミュニティサイトや、FacebookやSlackなどといったプラットフォームを利用したユーザーコミュニティを運営します。顧客からベンダー側へのあらゆる顧客のフィードバックも、よりリアルに生の声を得られることから、プロダクト改善に役立ち、顧客全体の満足度・成果の向上に貢献するでしょう。

ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの分類方法

顧客を分類する際には、LTV(顧客生涯価値)を基準に行うのが一般的です。この章では、LTVとともに判断材料にするとよい基準や、LTV以外の観点での分類方法も解説します。

LTV(顧客生涯価値)で分類する

顧客を3つのタッチモデル(ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチ)に分類するには、LTV(顧客生涯価値)を軸に行うのが一般的です。LTVとは「1顧客が契約開始〜終了の期間、自社にどれだけの収益をもたらすか」を示した指標で、LTVを最大化するためには「LTVの高い顧客にリソースを集中するのが効果的」であるからです。グループごとに投じるコストに対して、どのくらいのリターンが見込めるかを計測した上で、グループ分けを行います。具体的にはLTVの数値によって以下のようにグループ分けしていきます。

LTV以外の顧客の分類方法にも、プロダクト活用の成熟度と、将来的な契約の拡大可能性(ポテンシャル)を見てセグメント分けしたり、ARR(年間経常収益)・ロイヤリティの高さなどで判断している企業もあります。ロイヤルティの高い顧客は、アップセル・クロスセルの確率は高く、チャーンは低いことから、LTV向上が期待できるからです。

LTV以外の顧客の分類方法にも、プロダクト活用の成熟度と、将来的な契約の拡大可能性(ポテンシャル)を見てセグメント分けしたり、ARR(年間経常収益)・ロイヤリティの高さなどで判断している企業もあります。ロイヤルティの高い顧客は、アップセル・クロスセルの確率は高く、チャーンは低いことから、LTV向上が期待できるからです。

LTVの計算方法

LTVは、カスタマーサクセスにおいてとくに重要なKPI(重要業績評価指標)のひとつで、目標の達成度合いを計測するのに重要な項目です。一般的には以下の算式で算出されますが、事業規模や形態、ビジネスモデルによっても異なります。

LTV=平均購買単価×購買頻度×購買継続期間

SaaSのビジネスモデルは、商品単位で原材料や原価を割り出せる一般消費財と異なり、顧客ごとの正確な原価を断定できないため、総売上高から考えて以下のように計算するとよいでしょう。

LTV=平均サービス利用単価×利用継続期間

さらにチャーンレート(解約率)を加味した数値を算出したい場合は、「1顧客あたりの平均利用単価」であるARPA(Average Revenue per Account)を使って以下のように算出します。

ARPA=すべての顧客の総売上額÷総顧客数

LTV=ARPA÷チャーンレート

LTV以外からの分類法

タッチモデルの振り分けは、LTVに加え「顧客の状態」を正確に計測して、考慮に入れる必要があります。LTVを軸に分類する方法が一般的であることは前述しましたが、「現在の月額単価」と「事業や従業員の規模などのポテンシャル」から見込まれるLTVだけを判断材料とすると、基準にあてはまらない企業も出てくる点には注意が必要です。

実際に、LTVの高低にしたがって顧客を一様にグループ分けしてサポートを行っても、期待以上の効果が生まれなかったケースもあります。この場合は、顧客ごとの定性的な指標を可視化するために、顧客の潜在ニーズを探るためのツールを活用するとよいでしょう。指標の一例には、「プロダクト活用の成熟度合い」や「事業の成長度合い」、「経営陣が上位プラン導入を前向きに検討しているか」などが挙げられます。

SaaSのようなリテンションモデルにおいては、進化したテクノロジーの力を駆使して顧客一人ひとりを知り尽くし、正確なデータを取得することが非常に重要といえます。「誰」が「どのような状況か」をデータ分析してアプローチし、予測モデルに反映させることでより精度の高いカスタマーサクセスを行えるようになるはずです。人的リソースをどこにさくべきかを正確に判断できるため、自社のコストやリソースを最適化するのにも役立つでしょう。

顧客層を分ける理由とメリット

「顧客層の分類は、顧客に対して優劣をつけるようで失礼なのでは」と感じる方もいるかもしれませんが、分類はあくまでも「顧客の成功のために行うプロセス」のひとつです。この章では顧客層を分ける理由とメリットについて解説していきます。

顧客に合わせた対応が可能

顧客層を分類しておくことで、顧客ごとにより最適化した対応が可能になります。カスタマーサクセスにおいて一番重要なのは「顧客の成果の実現」であり、すべての顧客に伴走して手厚くフォローできるのが理想的ですが、顧客のリソースや状況によってはそこまで求めていないといったケースも考えられるでしょう。

顧客の利用状況に応じて、適切なアプローチ方法を講じることは、コストパフォーマンスの最大化にもつながります。

リソースの最適化

顧客層を分けて対応することで、限られたリソースを最大限に有効活用できる点もメリットです。リソースを最適に配分できれば、カスタマーサクセス部門が少人数であっても、投下したコストに対して充分な費用対効果を発揮できます。

「現実的に、すべての顧客に対して人的リソースをかけて手厚い対応を施すのは難しい」ことを想像するのはたやすいでしょう。ただ、「LTVに大きく影響力のある顧客層」に対しても、下位顧客に合わせた対応をしていては、LTV最大化はむずかしいのも事実です。

LTVを軸に顧客層を分けることで、リソースをどこに集中させるか見極め、顧客ごとの状態に合わせてリソースを効率的に配分できるようになるのは、大きなメリットといえます。

ハイタッチでの支援に適した顧客とは

ハイタッチでの支援に適した顧客とは、一般的には「高いLTVを見込める」顧客層ですが、具体的にどのようにLTVの高低を判断すればよいのでしょうか。

LTVは現在の月額単価だけでなく、将来的な価値の予測を含む不確定な数値です。現在の顧客の状態や関係性などのデータから、ある程度は予測できます。以下のような要素において、自社で独自に基準を設定し、ハイタッチに適した顧客を抽出していくとよいです。

(1)契約金額:収益に直結する最重要項目です。

(2)契約期間:契約期間が長い(チャーンの確率が低い)ことは、カスタマーサクセスにおいて非常に重要なポイントといえます。

(3)企業・組織規模:規模が大きいほど潜在アカウント数も大きく収益拡大の可能性が大きいでしょう。

(4)顧客ロイヤルティ:愛着や信頼を育てることで、二次収益(よい評価の拡散)の恩恵が期待できます。

ハイタッチの具体的な内容、施策

ハイタッチの具体的な内容、施策はどのようなものがあるのでしょうか。顧客ごとの個別対応が中心となるハイタッチの施策について、具体的に解説していきます。

ベンダー企業の部署間引継ぎ

ハイタッチの具体的な支援の第一歩として、部署間での顧客情報の引き継ぎがあります。顧客がプロダクトを購入・契約した段階で、顧客を営業担当からカスタマーサクセスへと引き継ぎましょう。

基本の顧客情報だけでなく、なぜこのプロダクトを選んだのかや、達成したい課題解決や目標など、顧客の潜在ニーズを含む詳細な情報についてきちんと確認し共有しておく必要があります。これらの情報は顧客が成果を達成するためにはもちろん、適切に顧客分類するのに必須の情報です。

一例をあげれば「大規模企業で、社員全体での利用を前提に、多大なアカウント数でプロダクトを導入したい」場合であれば、プロダクトに対するリテラシーの高低に差が生じるため、ハンズオン形式の支援が適している、と判断できるかもしれません。顧客それぞれの導入背景や活用状況を含む、詳細情報を正確に引き継ぐことで、顧客が本当に必要なカスタマーサクセスを提供できます。

成功指標を固める

ハイタッチ支援の一貫として、顧客とともに具体的な成功指標を固めていきます。そのためには、顧客にとって何が成功なのかをしっかりと理解することが大切です。具体的には、ロードマップやマイルストーン設定、KPI等の目標設定などがこれにあたります。サービスを利用する上での目標、およびそれに対するロードマップ、KPIの設計などをサポートしましょう。

ただ、顧客は大枠の推進要因を持っていたとしても、具体的な指標やその基準値についてはわからない、というケースが多いかもしれません。他の顧客の事例を挙げながら、「どのくらいの数値」を指標とし、「いつまでの期間に」という基準値を設定するとよいかを、顧客と協力して固めていくプロセスが必要不可欠です。

また、顧客の事業レベルに適した成功指標を固めるには、タイミングも重要になります。なるべくプロダクトの導入期、まだ顧客の関心度が高い営業プロセスから「どのような成功指標をもつのか」を念頭に置き、顧客を導いていく形がとれればベストでしょう。

オンボーディングプロセスの実施

カスタマーサクセスは「オンボーディングプロセスから」が「報酬に値する仕事」です。顧客になって最初にした体験が、その後の方向性を決めるともいえるでしょう。顧客のリテンションがビジネスの成否を左右するBtoB向けSaaSビジネスでは、いかに速く、顧客が安心してサービスを利用できる環境をつくれるかが重要です。その上でオンボーディングプロセスの実施は、最も重要な期間といえるかもしれません。

オンボーディングの期間とリテンションには相関関係があり、完了日は早ければ早いほど更新率が高いです。ハイタッチ顧客の場合、最初に成功指標を決めたあと、マンツーマンで顧客に合わせたオンボーディングプロセスを組むことも多くなります。

専任の担当者が、顧客の課題に寄り添い、カスタマイズされた導入支援を行うこともあるでしょう。顧客のニーズに合わせた個別の勉強会や定期的なミーティング・Web会議などを実施して、サービスを確実に使いこなせるように手厚く支援します。

定期的なミーティング

現在の顧客が「どのような状況」で「何を達成しようとしているのか」を確認するために、定期的なマイルストーン・ミーティングを行います。顧客の成果達成・事業成長のためには定期的なビジネスレビューのスケジューリングが必要不可欠です。

定期的なミーティングでハイタッチ層の顧客と共に決めた目標への進捗を確認できれば、強固な信頼関係を築けるでしょう。顧客に、どのくらいの効果が出ているかを実感してもらい、課題を明確化するためのレポートを作成するとよいです。

とくにハイタッチ層においては、カスタマーサクセス担当者が直接のコミュニケーションを重ねる中、部署全体でも目標を定量化することで進捗を確認できます。顧客が、ミーティングにおける効果検証のサイクルに意欲的に取り組んでくれるようになれば、顧客のビジネスとそのサポートすべての面においてよい影響を及ぼすでしょう。

現場視察

現場の声を積極的に収集するための現場視察を行います。必要に応じて、現地訪問によるサポートを実施しましょう。頻度はケースバイケースで月1回の場合もあれば、年に1回の場合もあります。

ボイスオブカスタマー(VoC)を収集するほか、プロダクト担当が同席してカスタマーの声に触れる時間を作ることで、プロダクト改善に直接反映できるなど、自社にとっても貴重な時間です。開発担当やPdM(プロダクトマネージャー)が同席するとなおよいでしょう。

四半期ごとのビジネスレビュー(QBR)

四半期ごとのビジネスレビュー(QBR)で、「克服した課題と成果物」を確認しましょう。3か月ごとにクライアントとの状況と今までの成果を確認し、さらなる成功のために次に取るべき戦略を確認していきます。

QBRの実施においては、顧客に「成功の基準」を明示し、理解してもらうことが重要です。すでに開示されている「サポート案件の確認」や「ロードマップの更新」といった受動的なビジネスレビューでは、顧客側としても参加するメリットを実感できないかもしれません。

顧客の成功基準を互いに明確に理解することで、次の成果達成に向けた、計測可能な目標を設定することも可能になり、QBRを有意義に活用できるでしょう。

定期的なヘルスチェック

カスタマーサクセスを成功させるには、常にカスタマーヘルスを把握し、管理することが必要です。買い切り型モデルでは売上時にほぼ収益を回収できたのに対し、SaaSモデルでは初回取引で得られる収益は顧客LTV全体の10%ともいわれており、リテンション率は事業の存続にかかわる重要な問題です。

リテンションをある一定以上の水準に保つためには、カスタマーヘルスをつねに監視・分析し、対処をする必要があります。「どのような状態が健康か」を自社で定義したら、適切なツールを通して、各項目を元に顧客の健康状態を計測しましょう。計測の基準となる項目は、利用頻度・オンボーディング完了率・カスタマーサポートの利用率・コミュニティへの参加率・契約金の増減・満足度調査への回答など、自社にとって必要な項目を採用します。

ハイタッチモデルに関しては、ヘルスチェックにおいて「よい兆候が見られた」場合または「危険度が高い」場合、電話やメールなどで直接アプローチを行うケースが多いです。ただハイタッチだからとやみくもに人的リソースを投下するのではなく、ツールを活用し「担当者が書いたかのように見せて自動メールを送信する」といった施策も併用することで、担当者への負担が偏りすぎないようにする工夫も必要です。

カスタマーサクセスにとってハイタッチが重要な理由

BtoBビジネスには、「2割の顧客が8割の売上を占める」といわれる「パレートの法則」があてはまります。このBtoBビジネスの領域において、カスタマーサクセスの中でもハイタッチが重要視される理由について見ていきましょう。

顧客ロイヤルティの向上

顧客ロイヤルティが向上すれば、リテンションやアップセル・クロスセルなど、さらなる収益につながります。このロイヤルティを高めるためには、顧客を成功に導き、導入したツールやサービスが「なくてはならない!」と思わせるプロセスが必要不可欠といえます。

カスタマーサクセスにおける顧客ロイヤルティの重要度は非常に高く、カスタマーサクセスの「青本」とされる著書『カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』でも、「カスタマーサクセスとはロイヤルティの言い換え」と述べられているほどです。

またロイヤルティの高い顧客は、サービスを他の顧客に広める広告塔の役割もこなしてくれます。プロダクトの高評価の口コミより、ブランディングを向上させる効果もあります。実際に口コミからの紹介や、担当者の転職先からのツール導入など、二次収益の発生によりLTV向上に大きく貢献するでしょう。

解約の阻止=リテンション率向上

ハイタッチが重要視される理由のひとつに、解約を阻止しリテンション率を向上させることがあります。解約を防ぐことはリテンションモデルにおいても重要なポイントのひとつですが、とくにハイタッチモデルにおいては、1顧客の解約が大きな損失となる点に注意が必要だからです。

ハイタッチ層に多い大口顧客は、取引額も大きく、一人ひとりの顧客価値が非常に高くなります。顧客から見てもベンダーから見ても、利益を最大化する優先度が最も高いのがハイタッチモデルといえるのです。LTV最大化の観点からも「今後期待できるLTVの値が大きい顧客の支援に注力するべき」であることは明白です。

顧客の課題に密接に寄り添いながら伴走し、成果を届けることでロイヤルティを向上させ、解約の阻止、すなわちリテンション率の向上を実現しましょう。

アップセル・クロスセルによる収益向上

「ハイタッチでの支援を受ける顧客層は、アップセル・クロスセルなどによって増額する可能性が高い」という点も、ハイタッチが重要視される一因といえます。顧客が、ベンダー企業または企業から提供されるプロダクトに満足している限りは、「ハイタッチ層の顧客は、新たな売り上げを生み出し続ける存在」ともいえるのです。

アップセル・クロスセルによる収益は、将来にわたって利益を生むものであり、リテンションだけにとどまらず、長期的に見て顧客との関係の金銭的価値向上も期待できるでしょう。

ハイタッチの徹底が将来的なテックタッチや効率化に繋がる

ハイタッチの支援に徹底して取り組むことで、ロータッチやテックタッチへの取り組みを充実させ、プロダクト全体の充実・向上にもつながるでしょう。ハイタッチは基本的に1対1のコミュニケーションにより支援をおこなう手法であるため、顧客の生の声を得て、直接プロダクト改善に活かせるのが強みです。

ハイタッチでは、「顧客ニーズやフェーズに最適化し、顧客ごとにカスタマイズされた支援」を行います。それぞれの顧客にケースバイケースの対応を重ねていく中で、さまざまなノウハウや新しいナレッジが蓄積されていけば、顧客全体に対するサポート内容を体系化できるようになるはずです。実際に成果が出た取り組みを抽出し、ロータッチ・テックタッチ層での施策に応用することで、より質の高い顧客体験を提供できるでしょう。

ハイタッチ実施のポイント

ハイタッチは、重要度の高い顧客のリテンションを維持するための、重要な施策です。ハイタッチの支援に取り組む上で、注意すべきいくつかのポイントについて解説します。

顧客を分類し、状況に合わせた対応をする

顧客が本当に求めるサポートを提供するには、顧客ごとの状況把握を正確に行うことが求められます。顧客をセグメンテーションしたら、あとは単にタッチモデルごとに均一の支援を行えばよいわけではありません。

大口契約した大手企業だからといって、ハイタッチでの支援、たとえば「訪問による手厚いサポート」が100%必要かというと、「リソースにゆとりがあり、担当者の専門知識が豊富なためそこまで必要としないケース」もあるのです。逆に最小プラン契約の中小企業だからテックタッチのみでよいかというと、「担当者が一人しかおらずリテラシーも低いため、有人のサポートを必要するケース」もあります。この場合は、ハイタッチに準じるような有償サポートを提案することで、顧客のニーズに対して過不足なくサポートできる環境を整えます。

プロダクトを利用していく上で、顧客の課題、目的、目標は変化していくはずです。「課題解決に対して別の方法も試みたい」「目標達成して次のフェーズを迎えている」など、顧客それぞれの状況を把握することで、適切なタイミングで必要な支援を行い、顧客満足度・顧客ロイヤルティの向上につなげましょう。

自社のリソースに合わせた対応をする

ハイタッチ層向けの支援は、見込まれる効果も大きいことから、時間も労力も要するのが実情です。カスタマーサクセスを行っていく際には、あらかじめ自社の人的リソースやコストを明確にし、その範囲内での対応を行います。

たとえばサポートの一部を有償化することで予算を確保できれば、プロダクト改善やシステム導入、外部サービス委託などを取り入れるはずです。このように自社のリソースを拡大できれば、結果として顧客に対するサポートも充実するでしょう。現状のセグメンテーションが適切か再確認するために、カスタマーサクセスで用いられる指標(オンボーディング・リテンション・チャーン・アップセル・クロスセル・NPS®など)を常に監視・分析することもリソースの最適化につながります。

またハイタッチ支援は、顧客と直接コミュニケーションをとる機会も多く、担当者の技量によって信頼関係を獲得しているケースも少なくありません。経験豊富な担当者のノウハウ・ナレッジを社内で共有できる体制を整えることで、満足度の高いサポート体制を仕組み化できます。属人化を避け、担当者に負担が偏らない工夫ができれば、自社内のリソースを最適化しながら、顧客に質の高いサポートを提供できるでしょう。

ハイタッチ、ロータッチを行う人材の育成・雇用

カスタマーサクセス自体はその歴史が比較的新しいため、人手が不足している上、職種への適性イメージが確立できていない側面もあり、積極的な人材の育成・雇用が必須となります。

ハイタッチモデルは、基本的に顧客と一対一のやりとりになるケースが多いです。顧客とコミュニケーションをとる上で、よりよい関係を構築しながら、顧客の状況を管理する力が求められます。プログラムや顧客のたどるプロセスに関して熟知しているだけでなく、それらの情報を的確に分析し、顧客が抱えている課題を解決するスキルも必要です。

人材育成の一例としては、営業職の人材がもつ適性「セールスで培われた新規顧客に対するコミュニケーション能力や洞察力」に加えて、「既存顧客の分析と戦略立案」「システムの高度な専門性」を習得できるように教育していく方法があります。

カスタマーサクセスの本質を忘れない

ハイタッチ層への支援に注力するあまりに、カスタマーサクセスの基本・本質を忘れないことも大切なポイントのひとつです。顧客をグループ分けすることで効率的なサポートが行える反面、ひとつ一つの対応が作業化しやすい面はタッチモデルのデメリットのひとつでもあります。

カスタマーサクセスに取り組む目的は、あくまで「顧客の成功」であることを忘れないようにしましょう。「有名な大手企業である」「LTVの値が高い」などの定量的な条件のみから、「すべての支援をハイタッチで行う」と決め込むのではなく、顧客が求めている成功に対して提供するサポートが最適かを試行錯誤するプロセスこそが、カスタマーサクセスの本質ともいえるのです。

人が行うべき支援とツールによる支援を明確にする

ハイタッチの支援だからといって、「すべての場面において必ず人手を介しての対応が必要」というわけではありません。たとえば操作の学習や、コンテンツの配信などといった作業を効率化するためにテクノロジーを活用することで、生産性をあげられるでしょう。人が行うべき部分を明確にすることで、効果はより一層高くなり、全体のリソースを最適化できるはずです。弊社CC(クラウドサーカス)では、「行動につながる情報を1つのシステムにまとめる」ことで顧客の可視化を可能にしています。

たとえば本当にCS担当がメールを送ったかのように見せられる MAツール や、基本的な使い方が誰でもわかるチュートリアル機能などを活用することで、増え続ける顧客対応を効率化することも可能です。弊社クラウドサーカスのCSツール Fullstar(フルスタ) では、ノーコードでかんたんにチュートリアル設定ができ、顧客自身が活用できる仕組み作りを可能にします。セルフオンボーディングを促進しながら、サポートの工数を減らし、使いやすいUIやUXを提供することで顧客満足度向上にもつながります。無料プランから気軽に試していただけますので、ぜひチェックしてみてください。

カスタマーサクセス一人当たりの担当社数

この章では、「カスタマーサクセスチームの一人当たりが何社ほど担当しているか」について、近年の傾向を元に確認していきます。

カスタマーサクセス担当者に向けてデータをまとめた「 カスタマーサクセス白書2022 」によると、2022年のカスタマーサクセス担当部門の一人当たりの担当社数は、「16〜50社を担当している企業が39.8%」で最多、次いで「1〜15社を担当している企業が23.5%」で、これらで過半数を占めています。例年「ひとりあたり16〜50社を担当している企業が最多」で、2021年は38.4%、2020年は32.7%となっています。大きな変化は見られませんが、ここ数年で「一人あたりの担当社数は少なくなっている」傾向にあります。

弊社クラウドサーカスの場合を一例にあげると、印刷/デザイン・広告会社などの「顧客に提案してゼロからモノを作り出すクリエイティブ企業」のうち、複数の商材を導入してくれている=LTVの高いハイタッチ層に対して、カスタマーサクセス担当は一人当たり20~30社保有しています。またロータッチ層の保有社数は一人あたり200社程度です。商材によって戦略・手法は異なるため一概には言えませんが、目安として参考にしてみてください。

タッチモデルの運用事例

この章では、カスタマーサクセスを先導する企業が、タッチモデルを運用しビジネスの成長に成功した事例をご紹介します。成功のポイントをおさえて、ぜひ自社でのタッチモデル運用の際に参考にしてみてください。

株式会社セールスフォース・ドットコム

セールスフォース社は、顧客関係管理プラットフォームを提供する米国の企業です。「カスタマーサクセス」という言葉をつくったのも同社だといわれています。

日本法人株式会社セールスフォース・ジャパン は、3つのタッチモデル、「ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ」を採用しています。これに加えて「無償サポート/有償サポート」と「顧客の活用フェーズ」の3軸でサポート内容を分類することで、LTV視点に偏らないセグメントを可能にしています。同じタッチモデルでも、有償無償によってもサポート内容が異なるのも特徴です。

Sansan株式会社

SanSan株式会社 は、クラウド型名刺管理サービスを提供している日本企業です。同社では、「ハイタッチ・ミッドタッチ・テックタッチ」の3つのタッチモデルで顧客を分類しています。また顧客のフェーズごとにも3つの分類「導入」、「運用・活用・定着」、「拡大・継続・解約阻止」があり、これらを掛け合わせることで顧客ごとに最適化したカスタマーサクセスの提供に成功しています。サポート方法は電話やメール、セミナーから訪問まで、顧客のフェーズとニーズに適した形を選択できるのも特徴です。

株式会社SmartHR

株式会社SmartHR は、クラウド人事労務ソフト「SmartHR」を提供する日本企業です。タッチモデルは事業規模ごとに「エンタープライズ・SMB・テック」の3つに分類、顧客フェーズは「オンボーディング」「エンタープライズCSM」「SMB CSM」「テックタッチ」「オペレーション」の5つのチームに細分化しています。カスタマーサクセスを完全に仕組み化し、テクノロジーを併用することで効率化を図り、99.5%という高いリテンション率を誇っています。

Zoomビデオコミュニケーションズ

Zoomビデオコミュニケーションズ は、ビデオミーティングシステムを提供しており、近年広がったテレワークによって急成長しているアメリカの企業です。同社では主に「テックタッチ」によるサポート・2021年に設置された「コミュニティ」によるサポートを行っており、コストを抑えながらも効率的に顧客ロイヤルティの育成に取り組んでおり、参考になる点も多いでしょう。サポートの内容には以下のものがあります。

「ハイタッチとは」まとめ

カスタマーサクセスの中でも重要なタッチモデル、「ハイタッチ」について解説しました。

「ハイタッチ」は、顧客との良好な信頼関係を築くことが要となる手法です。ときには対面でのコミュニケーションに固執せず、各種システムやツールなどのテクノロジーをうまく取り入れることで、人的サポートの効果を最大限に引き出せるようにする柔軟性も大切です。時間と共に変化する顧客の状況や目標に応じて、ほかのタッチモデルの手法も効果的に取り入れ、「顧客の成功」=「自社の成功」のために取り組んでみてください。

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