ヘルススコアとは、カスタマーサクセスにおける顧客の活用レベルを数値化したものを指します。顧客が自社サービスをどのくらい利用しているかを数値で表し、サービスの継続利用可能性を測るために用いられます。
ヘルススコアは、自社サービスをきちんと使えている状態を「ヘルス(=健康状態)」とし、「今どのくらい健康なのか?」を「スコア(数値)化」したものであるため、そのように呼ばれます。
ヘルススコアとは、カスタマーサクセスにおける顧客の活用レベルを数値化したものを指します。顧客が自社サービスをどのくらい利用しているかを数値で表し、サービスの継続利用可能性を測るために用いられます。
ヘルススコアは、自社サービスをきちんと使えている状態を「ヘルス(=健康状態)」とし、「今どのくらい健康なのか?」を「スコア(数値)化」したものであるため、そのように呼ばれます。
ヘルススコアは、多くの場合でカスタマーサクセスの文脈で利用されます。そもそもカスタマーサクセスとは、直訳すると「顧客の成功」という意味で、「顧客が求める成果や目標の達成」を実現するために顧客と一緒に伴走し、且つ「自社の利益を最大化」する活動や組織のことを指します。
サブスクリプションサービスの登場で、カスタマーサクセスの重要性が増し、カスタマーサクセスをより効率的に正しく行えるようにヘルススコアが活用されるようになりました。
カスタマーサクセス組織を立ち上げるにあたり、一度はヘルススコアの設計を考えたことがある方が大半だと思います。ヘルススコアが重要とされる理由は大きく4つあります。
1つ目は、顧客の状況を可視化できることです。カスタマーサクセスは顧客の成功を目指し活動を行いますが、サービスを導入してからすぐに顧客が成功するわけではありません。サービスの初期設定が完了しているか、活用できる状態にあるかを把握できるようにして、きちんと顧客の成功に近づいているかを確認する必要があります。
カスタマーサクセスの活動は、定量化できるものが少なく、正しい方向に向かっているかカスタマーサクセス担当者が分からなくなるケースがあります。そのため、ヘルススコアを用い、定量的に把握し、顧客の活用状況を可視化する必要があります。
カスタマーサクセスを行うのは、顧客の成功のためでありますが、営利企業の視点で考えると「LTVを最大化する」ことが目的になります。LTVを最大化するためにはヘルススコアは以下のケースで活用できます。
まずカスタマーサクセスに求められることとして「解約数をできるだけ減らすこと」があります。解約数を減らすためには解約しそうな顧客を適切に把握する必要があります。ヘルススコアで解約しそうな顧客を定量化できると、解約前にアクションすることができ、LTVを高めることに繋がります。
次に、「契約金額の向上」がカスタマーサクセスには求められます。1ユーザーあたりの顧客単価のことをARPU(Average Revenue Per User)、1アカウントあたりの顧客単価のことをARPA(Average Revenue Per Account)と呼びます。アップセル、クロスセルの可能性が高い顧客をヘルススコアで特定できれば、契約金額の向上に繋がり、LTVを高めることができます。
ヘルススコアを用い、カスタマーサクセスから能動的なアクションを行うことで、顧客体験を損ねず最適な支援をすることができます。ヘルススコアのような顧客の利用状況を可視化することができていないと、顧客が求めていないカスタマーサクセスのアクションをしてしまう可能性があります。例えば、A機能の設定を既に終えているのにA機能の設定案内を行うなどがあります。カスタマーサクセスには能動的なアクションが求められるが故に、「お節介」になることもあります。顧客が求める最適な体験を作っていくためにもヘルススコアは有効です。
最後に、カスタマーサクセスを効率的に行うことができます。解約を防ぐために、毎月定期的なタイミングで顧客へアプローチすることができれば良いですが、複数社保有している状況ではそうもいきません。月額5万円程度のサービスの場合、1人のカスタマーサクセス担当が担当する社数は170社が理想と言われています。多くの場合、すべての顧客に等しく毎月アプローチするのは困難で、自身の勘と経験を頼りにカスタマーサクセス活動を行うことで、思ってもないところから解約が発生してしまいます。ヘルススコアを用いることで、解約可能性が高いところから重点的にアプローチできるため、効率的にカスタマーサクセス活動を行うことが可能です。
ヘルススコアは顧客の健康状態を可視化するもので、作成する際に必ず議論になるのが、「これだけの項目で網羅できているか」「どの程度の範囲の項目を対象にすれば良いのか」などです。ヘルススコアを考えるにあたり、ある程度の網羅性を担保するためのフレームワーク、モデルの1つとして「DEAR」と呼ばれるものがあります。このDEARを抑えていればヘルススコアとしての網羅性は一定担保できると考えてよいです。
Deployment:ユーザーは正しく利用開始できているか
Engagement:ステークホルダーとエンゲージできているか
Adoption:製品を広く/深く活用してくれているか
ROI:製品の価値を感じているか
※DEARフレームワークを提唱しているGainsight社から引用。
(https://www.gainsight.co.jp/blogs/healthscore-introduction/)
まずは、ツールの初期設定等が正しく終えられているかを測る項目を設定します。オンボーディングが完了しているかどうかを測る指標です。
例えば、マーケティングオートメーションツールで言うと、
・計測サイトの設定
・トラッキングコードの埋め込み
・メール配信の初期設定
・社内アカウントの追加
等が、Deploymentの項目に当たります。
当たり前の話ではありますが、初期設定を終えていない状態は健康状態と程遠いです。まずは最低ラインとしてDeploymentがヘルススコアの要素として重要になります。
次に、ユーザーのエンゲージメントを測る項目を設定します。こちらはカスタマーサクセスマネージャーの定性的な感覚的な部分も尊重はしつつ、できるだけ共通で分かりやすい指標を設けることがポイントです。例えば、「この会社の担当者とは仲が良く直近での解約はあまりなさそうです」このような報告をカスタマーサクセスマネージャーからもらって、エンゲージメントが高いと判断するのは少し危険です。属人的な管理にならないために、以下のような項目を用います。
・NPSの点数
・ユーザー会、勉強会の参加数
・レビューサイトへの口コミ投稿、事例取材
初期設定完了後、定期的にきちんと成果を出すような運用を行っているかを測る必要があります。アダプション指標です。
例えば、マーケティングオートメーションツールで言うと、
・〇か月に〇回以上のメール配信
・〇個以上のフォーム活用
等が、Adoptionの項目に当たります。
最後にROIです。最も重要な項目になります。ROIが低いとサービスを解約することが多いですが、ROIが高いとよほどの理由がない限りサービスの解約にはなりません。
サービスを導入することは結局何かしらの数値を改善したい(ROIを高めたい)という目的があります。その目的を達成するようなROIをユーザーが感じているかは非常に重要な項目です。ROIは重要ですが、項目として計測しづらいという側面もあります。
例えば、マーケティングオートメーション導入に対するROIは、「導入することにより売上をどの程度伸ばすことができたか」になりますが、顧客の売上を正しく把握する必要があり、サービスの利用状況からは確認がしづらい部分になります。
ROIに関しては計測しづらいため、定期的なMTGの際に、ユーザーに直接効果を確認しにいくことが重要です。大事なのはROIが高く、かつそれをユーザーが正しく認識していることであるため、MTGで「どの数値がどのくらい改善されているのか」をユーザーと共通認識を持つようにします。
ヘルススコアを用いたカスタマーサクセス活動は多くのメリットがあります。しかし、ヘルススコアの運用が正しくできているという企業を国内ではあまり聞いたことがありません。主に以下の理由からヘルススコアの運用が上手くいきません。
ヘルススコアは顧客の状況を定量的に把握する手段として非常に有効です。しかし、スコアは多くの場合カスタマーサクセス担当者の主観で決めます。スコアを決定する際の充分なデータ量が足りずに「ここは重要層だから〇点」のような主観で決めていくしかないことが多いです。そのような場合に、スコアの妥当性を誰も判断できない状況になります。スコアが正しいかどうか分からない状態だと「スコアに基づいたアクションをカスタマーサクセス担当者がやってくれない」「スコアの根拠がなくいつまでもスタートできない」などの問題が発生します。
ヘルススコアは、スコアを顧客毎にカスタマーサクセス担当者が適切に入力していく必要があります。ヘルススコアの管理はCRMツール上で行っていたり、カスタマーサクセスツール上で行っていたり、Googleスプレッドシートで行っていたりすることが一般的です。
いずれのツールを利用して管理するにしても、すべての項目のスコアを自動更新することは非常に難しく、カスタマーサクセス担当者が手動更新しないといけないことが多々あります。
特にDEARフレームワークのEngagementにあたるスコアはプロダクトの利用データ以外も活用するため、手動管理が多くなります。カスタマーサクセスの日々の業務に加え、ヘルススコアの更新を行っていくと、正しくスコアの運用ができなくなることがあります。
一度設定したヘルスコアは、顧客の置かれている環境や提供サービスのアップデートに伴い更新していく必要があります。例えば、業界全体的な不況に陥った際、サービスの利用更新の条件は好況の時と比べ必ず変わります。
今まで以上にシビアにROIを求められたり、よりコストがかからない代替手段の検討が始まったりします。市況によりヘルススコアの基準は変わるため、1年に最低でも1回はメンテナンスが必要です。
また、サービスアップデートにより「重要な新機能」をヘルススコアの項目に追加する必要性も出てきます。これらの、一度設定したスコアを更新していくことが必要ですが、ヘルススコアを更新する工数を担保できず、ほとんどの企業がメンテナンスできていないと聞きます。
CSOpsが専任としている会社や案件を直接担当しないCS部署のマネージャーがいる会社出ない限り、ヘルススコアのメンテナンスを適切なタイミングで更新していくことは困難です。
ヘルススコアの活用には、サービス利活用データの蓄積、メンテナンス、運用リソースが必要です。ヘルススコアをカスタマーサクセス立ち上げの初期段階で1人で運用しようと思うと多くの場合、上手くいきません。
ほとんどのサービスで共通して活用している項目として挙げられるのが「サービスログイン状況」です。数カ月ログインがなければ解約可能性はもちろん高くなります。サービスのログイン状況の把握は、ほとんどのサービスで共通して重要な項目となり、解約予知をする仕組みになり得ます。
サービスのコアとなる機能をどのくらい利用しているかももちろん重要な指標ですが、解約を防止するためには、スイッチングコストが高い機能をどれだけ利用してもらえるかが重要です。スイッチングコストが高いとは、サービス解約時のコストが高いことを指します。
例えば、他サービスとの連携機能やデータを蓄積し活用する機能、エンドユーザーと接点のある機能などがスイッチングコストの高い機能です。例えば、マーケティングオートメーションツールで言うと、メインの機能は「メール配信」機能ですが、多くの他のツールで代替可能でスイッチングコストが高いとは言えません。それよりも「Webサイトに埋め込んだフォーム機能」や「会員サイト構築機能」などはエンドユーザーが直接利用する画面になるため、リプレイスしたり辞めたりする際に一定の時間を要します。スイッチングコストが高い分、解約リスクが低くなり、解約する場合も何かしらの予兆を検知しやすくなります。
これら2つのトラッキングができていれば、まずはヘルススコアを活用しなくても解約を防いでいくことはできます。
ヘルススコアの活用は非常に難しくリソースも必要なため、最低限のデータを把握していきながら「オンボーディングの磨き上げ」をしていくことをおすすめします。オンボーディングが上手くいっていなければ、解約になる可能性も一気に高まります。またその後のサービスの利活用も進みません。ヘルススコアで顧客の状況を可視化する前に、顧客にきちんと利用してもらえるようにオンボーディングのプログラムを見直すことが重要です。
ヘルススコアはカスタマーサクセスで注目されている手法であり、カスタマーサクセスに取り組む上で一度は自社で取り組んでみたいと思ったことがある方も多いと思います。
ただ、ヘルススコアを運用するためには多くのリソースが必要になります。ほとんどのケースでカスタマーサクセス立ち上げ初期段階から行う必要はなく、カスタマーサクセスマネージャーで顧客の個別の状況が把握できなくなる手前で取り組み始めるのが良いでしょう。