カスタマーマーケティングとは、「既存顧客に行うマーケティング活動」のことです。契約後に継続的なマーケティング活動を実施し、アップセルやクロスセルを通してLTVの最大化を目指します。
”マーケティング”というと新規顧客獲得のための施策が想起されがちですが、労働人口の減少による新規の獲得コストの高騰やビジネスモデルの変化から、既存顧客へのマーケティング活動への関心も高まっており、注力する企業が増えてきました。
もちろん新規の見込み顧客の育成や潜在顧客の掘り起こしは企業の成長に欠かせないものですが、従来の新規顧客の獲得と平行して、既存ユーザーに対するアプローチを進めることが求められており、各社で様々な戦略をとられています。
今回は、そんなカスタマーマーケティングの施策効果や手法などついてご紹介します。
カスタマーマーケティングとは、すでに取引をしている既存顧客に対して、適切なアプローチを行い、顧客ロイヤリティやLTV(顧客生涯価値)の向上などを目指す活動です。
たとえば、顧客同士が交流できるコミュニティを運営したり、契約後にトレーニングセミナーを開催するなど、既存ユーザーに向けたマーケティング全般が含まれます。
言葉自体は最近になりよく耳にするようになったものの、既存顧客への取り組みは目新しくはありません。新規開拓と合わせて以前から行われてきた活動ですが、より重要視されるようになり、体系化された背景があります。
なぜ「カスタマーマーケティング」が重要視されるようになったのでしょうか。注目されるようになった理由は、「サブスクリプションの拡大」と「コストの低さ」の2つが挙げられます。
音楽や動画配信サービスの普及などで、サブスクリプション市場が急速に拡大しました。サブスクリプションとは定額料金を支払い、サービスやコンテンツを利用すること。コロナ禍で、サブスクを代表する「Netflix」や「Spotify」などの加入者も急増しました。
また、このサブスクリプションモデルの波は一般コンシューマー向けのサービスに限らず、法人向け(BtoB)のビジネスにもどんどん増えています。
サブスクリプションは、顧客獲得はもちろんのこと、利用顧客の維持が非常に重要となってきます。定期的な利用料が収入源であり、セットで関連サービスを勧める「クロスセル」や上位モデルの契約を獲得する「アップセル」も、LTVの最大化を目指すことが企業成長のカギとなるからです。
そのため、解約の防止や継続利用の促進など、既存顧客のマーケティングに力を入れる企業が急増しました。サブスクリプションモデルの普及が、既存ユーザーへの施策の重要性を高めた要因のひとつといえるでしょう。
「1:5の法則」をご存知でしょうか。「新規顧客の獲得コストは、既存顧客を維持するコストの5倍かかる」という意味の法則です。また、5%の顧客離れを改善すると利益率が25%アップするという「5:25の法則」も知られるようになりました。
新規獲得には、広告費などのコスト以外に時間や労力もかかります。一方、信頼関係を築いた既存顧客なら、少ないコストでクロスセルやアップセルにつながる可能性があります。そういった観点からも、既存ユーザーに働きかけるカスタマーマーケティングは重要な戦略のひとつとなったのです。
既存顧客へのアプローチといえば、「カスタマーサクセス」を思いつく方も多いのではないでしょうか。カスタマーマーケティングは、最近注目されているカスタマーサクセスと深いつながりがあります。ここからは、カスタマーサクセスの概要と、双方の関係性について紹介していきます。
カスタマーサクセスとは、製品・サービスの導入目的を達成するために顧客と伴奏していく仕組み、およびその組織を指します。
カスタマーサクセスのミッションは、顧客が抱える課題に対して積極的に提案や支援を行うことです。目的と目標を設定の上、サービスを適切に活用してもらうことで、成果を最大化していきます。
カスタマーマーケティングを展開するには、まずカスタマーサクセスで企業への信頼を得ることが重要となります。続いては施策についても詳しくみていきましょう。
カスタマーサクセスの代表的な手法として「タッチモデル」が知られています。タッチモデルとは、「ハイタッチ」「ロータッチ」「テックタッチ」の3つに顧客を分類して、最適なアプローチを実践する施策です。
大口顧客など、企業にとってメリットの大きい顧客に行うのが「ハイタッチ」です。1:1の対面による個別対応が中心となります。
問題解決に向けた提案や目標設定、進捗確認など、顧客ごとにカスタマイズして、コンサルティングのような対応を行います。
「ハイタッチ」の次に位置するアプローチ手法が「ロータッチ」です。具体例としては、セミナーやWebを使ったウェビナーや勉強会、ワークショップなどが挙げられ、ハイタッチのような個別ではなく、集団的な対応を行います。
ロータッチのような中間層の顧客に対するアプローチは、ある程度顧客数が多くなるため、個別対応では人手が足りません。質問や疑問点のみ個別に対応し、あとはセミナーで支援するなど、ハイタッチと組み合わせながら進めることが必要です。
顧客数の多い層へは「テックタッチ」で対応します。たとえば、サイト上に動画のチュートリアルを用意して導入開始を手助けしたり、プロダクトツアーと呼ばれるガイド表示を設定し、ログインをサポートしたりするなど、テクノロジーを活用した対応が中心になります。
テックタッチを利用すれば、顧客数が急増した場合でも、すべての顧客をフォローすることが可能です。最近では、チュートリアルやプロダクトツアーもツールを使って簡単に設定できるようになりました。そのため、サービス導入開始時のオンボーディングをテックタッチにまかせる企業が増えています。
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カスタマーマーケティングを行うことで多くのメリットが期待できます。ここからは代表的な事例をいくつかご紹介します。
メリットのひとつとして挙げられるのが、顧客ロイヤリティの向上です。顧客ロイヤリティとは、特定の企業やブランドに感じる「愛着」や「信頼」のこと。商品・サービスを利用して「使ってよかった」と実感してもらえれば、顧客ロイヤリティが向上し、そのまま契約を続けてくれる可能性も高まります。
とくに動画や音楽配信などは、サービスの利用が生活の一部になるくらい愛着を持ってもらえれば、簡単に他社へ乗り換える心配はなくなるでしょう。
さらに、顧客ロイヤリティが高まれば、顧客単価の向上も期待できます。利用したサービスで予想以上の成果があれば、ユーザーは同じクオリティを求めて、同ブランドのほかの商材も試したくなります。顧客ロイヤリティの向上が関連サービスや高額モデルへの契約につながり、LTV向上も望めるでしょう。
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カスタマーマーケティングは既存顧客にのみ有効と思われがちですが、新規顧客の呼び込みにも効果があります。カスタマーマーケティングで優良顧客の育成=ファン創出ができれば、ユーザーはポジティブな口コミをSNSや投稿サイトで拡散してくれます。
使ってよかった商品、おすすめしたいサービスを、誰かに紹介したくなることはありませんか。特に、親しい人から紹介された商品は信頼性が高まるといわれています。優良レビューは、売上にも直結しやすくなるでしょう。
口コミによる宣伝は、広告費と比べてコストパフォーマンスがよいため、最近ではSNSを開設する企業が増えています。
先述したとおり、新規顧客の獲得には、広告宣伝や展示会、セミナーなど多額なコストがかかります。それだけの予算をかけても、新規契約につながるのはほんのひと握り。信頼関係を築いた既存顧客へのセールスの方が成功率も高く、売上向上にも大きく影響します。
新規顧客への施策を進めながらも、既存顧客のサポートを低コストで行うことは、企業成長において重要な取り組みのひとつとなるでしょう。
最後に、具体的なカスタマーマーケティング施策についてご紹介します。
コミュニティ施策とは、「オンラインコミュニティ」のようなユーザー同士が交流する場を設けることです。ユーザー同士がサービスの情報共有をすることで、問題解決につながったり、そのときの意見が製品改善につながる場合もあります。
また、オフラインイベント、試作品のモニターなどに参加してもらうことで、ユーザーは商品・サービスへの愛着が増し、ファン化も期待できるでしょう。
〈施策例〉
セミナーや勉強会を開催して、顧客のスキルや習熟度の向上などを促します。「使い方がわからない」「機能を使いこなせない」などのネガティブな体験は早期離脱につながることも。未然に防ぐためにも、顧客に適したタイミングで、丁寧なフォローをしていきましょう。
〈施策例〉
VOCとは、Voice of the Customerの略語で、直訳すると「顧客の声」という意味です。コールセンターに寄せられた商品・サービスに対する意見・クレーム、そのほかメールによるアンケートの結果などを指します。直接企業に届いた意見だけでなく、SNSや個人ブログの書き込みもVOCに含まれます。
既存顧客から届く意見は、多くのユーザーが感じている不満や改善ポイントかもしれません。顧客からの生の声を分析し、問題点を早期改善すれば、利用者の顧客ロイヤリティを向上できます。顧客側からの意見を取り入れることは、カスタマーマーケティングを効率的に進めるための手法のひとつといえるでしょう。
〈施策例〉
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サブスクリプションの普及、人口減少による買い手市場の縮小などで、モノが売れない時代と言われるようになりました。従来どおり新規開拓だけに重点を置くのではなく、マーケティングの分野でも既存顧客に力を入れる新しい取り組みが必要です。
新しい言葉ではありますが、戦略を見直せばすでに行っている施策もあるはずです。もう一度、マーケティング活動を見直してみましょう。
すでにサービスを利用しているからと安心することなく、既存顧客こそ手厚い対応が求められています。既存ユーザーをいかに大切できるかで、企業のこれからが変わってくるかもしれません。